中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

民事再生法と取締役の責任

会社が経営破たんに陥った場合あるいは陥りそうな場合に、経営を立て直し企業の存続を図る制度として民事再生法が2000年4月から実施され、現在、大いに利用されていることは読者の皆様も新聞報道などで知っていらっしゃることと思います。確かに、経営者にとって民事再生法は力強い味方ではありますが、他方、経営破たんに陥ったという事実は会社経営者が経営上の何らかの失敗をした場合があることを示しています。そこで債権者の立場からすると、会社経営者に経営上の責任を追及したいという思いがあるでしょう。

民事再生手続きをとった場合、取締役の責任はどうなるのでしょうか。

民事再生法と取締役の責任

民事再生法では、再生手続きが開始した後でも原則として、従来の(代表)取締役がそのまま業務を遂行することができます。会社更生法では従来の経営者は経営権を失うものとされていることと、大いに違います。

しかしながら、再生手続きをとるに至った経緯をみると、放漫経営をした取締役や放漫経営を見過ごした監査役など、責任を負うべき役員のいる場合が少なくないことから、法は、民事再生手続きをとった場合でも、取締役等の役員は損害賠償の責任から逃れることはできないものとしています。このことを、まずもって留意しなくてはなりません。

いかなる場合に損害賠償責任を負うかについては後に述べるとして、次に責任追及の手続きをご説明します。

民事再生手続開始決定後、裁判所に対し、取締役等の会社役員に対する責任追及手続きを行なうべき事情の有無などが報告されなければならないとされています。ここから、裁判所は責任を負うべき役員がいるかどうかの情報を得ることとなります。通常、再生手続の申立は、会社の会社から委任を受けた弁護士が取締役等から事情を聞き調査をしながら、裁判所に提出すべき様々な書類を作成していくこととなりますので、役員責任追及手続きを行なうべき事実の有無についての報告書も弁護士が作成することとなります。

さて、多くの申立代理人弁護士は、会社の代表者から実質的に委任を受けるわけで、代表者とともに再生手続きの申立を行い、再生計画をたてるわけですが、他面、代表者ほか役員の責任を追求すべき事情の有無も調査・報告する責任を負うこととなり、複雑な立場にたたされます。しかし、弁護士は役員との人間関係よりも公平かつ誠実に業務を遂行する職責を優先するのは当然のことですので、裁判所に事実のまま報告しなければなりません。

責任を負うべき取締役がいると思われる場合、監査役が会社を代表して、「査定の申立」の手続きを行なうこととなります。

「査定の申立」というのは、取締役等の責任に基づく損害賠償請求権の有無を調査し、請求権があるときはその額を定め、かつその支払いを命ずる裁判手続きのことです。具体的には、「取締役○○は、○○という事由があるから、会社に対する損害賠償責任がある」、よって、「損害賠償請求権の額を○○円と査定する、旨の裁判を求める」という形で裁判所に申立を行うことになります。証拠も添付します。これを受け裁判所は、本人を裁判所に呼び、事情を尋ねます。その上で、賠償すべき金額を決定します。簡易・迅速に決定されるシステムがとられているのです(不服申し立てはできます)。

会社が申立を行なうほか、債権者が申立を行なうこともできますし、裁判所が職権で申立を行なうこともできます。

では、いかなる場合に取締役等の役員は責任を負うのでしょうか。具体的には、次のとおりです。

  1. 違法配当等を行なった場合 粉飾決算をして配当できないのに配当した場合などです。違法に配当するなどした金額が損害賠償額となります。
  2. 株主の権利行使に関し利益供与をした場合 総会屋に金銭を渡した場合などです。供与した利益の額が損害賠償額となります。
  3. 他の取締役に金銭の貸付をなしたとき 代表取締役に対する仮払い金がある場合、貸付金と認定される可能性があります。未弁済額が損害賠償額となります。
  4. 取締役と会社との自己取引 会社が蒙った損害額が賠償額となります。
  5. 法令または定款違反行為 会社の蒙った金額が賠償額となります。
  6. 新株発行についての取締役の引受担保責任 新株を発行したが引受のない株式があるとき、株式の申し込みが取り消されたとき、その価額が賠償額となります。

会社更生法での裁判例ですが、違法配当を行なったとして14億8000万円の損害査定と、違法な役員賞与を支給したとして1億2000万円の損害査定をした山陽特殊鋼事件(神戸地裁姫路支部昭和41年4月11日)、ゴルフ場の旧経営者が株式の仕手 戦を行なって会社に多額の損害を与えたことに対し、管財人が査定を申し立て、損害賠償査定額を270億円とした真里谷事件(東京地裁平成10年3月31日)、自己株式の取得という法令違反をした会社の取締役に対し、損害金35億円の内損害査定額を1億円とした三井鉱山事件(最高裁平成5年9月9日)などが有名です。

経営判断の原則について

取締役は様々な経営上の判断をしてゆかなくてはなりませんが、その判断にミスがあった場合は、責任を負うのでしょうか。全て責任を負うというのでは取締役に酷な結果となりますし、責任を負わないこととなりますと、モラルハザードとなってしまいます。

この点に関し、近時の判例は、経営判断の原則というものを採用し、取締役の責任を限定して認めるという立場をとっていますので、ご紹介しましょう。

野村證券事件に関する東京地裁平成5年9月16日判決は経営判断の原則を採用した代表的判例でありますが、同判決は、「取締役の経営判断の当否が問題となった場合、実際に行なわれた取締役の経営判断そのものを対象として、その前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったかどうか、また、その事実に基づく意思決定過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかという観点から審査を行なうべきであり、その結果、前提となった事実認識に不注意な誤りがあり、または、意思決定の過程が著しく不合理であったと認められる場合には、取締役の経営判断は許容される裁量の範囲を逸脱したものとなり、取締役の善管注意義務または忠実義務に違反する」ものとします。

現在ではさらに議論が進み、意思決定内容そのものと、意思決定過程とを分けた上、経営の専門家である取締役には会社の経営判断上広範な裁量権があることを前提にして、意思決定の内容そのものについては、著しい不合理、不適切なものがないかどうかが問われ、意思決定過程に関しては、慎重な検討、熟慮がなされたかを厳重に審査されるべきであるという見解が有力に主張されています。

こうして慎重な検討がなされた結果下された判断については、その内容が違法、ないし著しく不当・不合理でなければ、たとえその結果会社に損害が生じたとしても、取締役に義務違反はなく、責任を負わないこととなります。

中小企業について

以上、取締役を中心に会社役員の損害賠償の査定の制度について述べてきましたが、中小企業の場合、代表者個人が銀行などに対し、個人所有不動産について担保を提供したり、連帯保証人になったりしている場合がほとんどです。したがって、取締役の個人の責任を追及しようにも、支払能力がない場合が多いことが考えられます。また、代表者自身経済的に破綻し、民事再生手続きをとっていることも多いと思われます。こうした場合、査定制度は実効性をもたないこととなるでしょう。役員の交替があり、担保を抜いていたり、連帯保証人から脱退している旧役員に対し責任を追及する場合などは、実効性があるでしょう。

H13.10掲載