中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

中小企業の経営承継に力強い味方、経営承継円滑化法が施行になります

中小企業の経営承継を円滑にするための法律が成立

既にこの中小企業の法律講座でも何度か取り扱ってきておりますが、わが国の企業の90パーセントに及びその数は約430万社にのぼると言われている中小企業の経営を後継者に円滑に承継していくことは、優れた技術の承継、雇用の確保、さらには日本経済の健全で、継続的な発展にも結びつく極めて重要な課題となっています。

そのような観点から、中小企業庁等を中心として事業承継協議会が設置され、各委員会が中間報告を発表したり、「事業承継ガイドライン」が発行されたりしておりましたが、今般、中小企業の経営承継で問題となっていた点を改善するため、「中小企業における経営承継の円滑化に関する法律」が平成20年5月9日に成立し、平成20年10月1日から施行されることとなりました。

中小企業の経営承継に力強い味方、経営承継円滑化法が施行になります

遺留分についての特例

  1. 事業承継と遺留分の問題
     中小企業の経営承継で多いのは、やはり自分の子どもにその経営を承継させる場合かもしれません。承継の方法としては、現経営者が所有する株式等を生前に後継者となる子どもに贈与するということが考えられます。
     この場合、贈与した時点では、別に問題は起きませんが、元の経営者(親)が死亡したときに、後継者のほかに相続人がいる場合は、相続の問題が起きてくる可能性があります。
     例えば、元の経営者(親)にA、B、C3人の子供がいて、Aに会社の株式(亡くなった時点で9000万円の価値とします)を生前に贈与して後継者とし、さらに残りの資産である預金3000万円も全てAに相続させるという遺言をしていた場合を考えてみましょう。
     この場合、後継者Aは元の経営者(親)の全ての資産を取得しますが、B、Cは全く相続することができないことになります。これも元の経営者(親)の意向であるから仕方ないとも思えます。しかし、民法には相続人の生活が困窮することがないように、その者が権利を行使したときは、被相続人(上記の場合は元の経営者)の行った贈与や遺贈の効力を失わせて、相続人に一定の割合(上記の場合は法定相続分1/3の半分である1/6)の権利を留保させるという遺留分の制度があります。つまり、上記の場合は、B、Cは遺留分の権利を行使することにより、Aに対し、それぞれ2000万円(1億2000万円の1/6)の遺産を渡すことを要求できるのです。後継者のAとしては、合計4000万円を用意しなくてはならず、相続した預金3000万円とは別に1000万円を調達できなければ、会社の株式の一部を渡さなくてはならないことととなり、折角株式をAに集中させた経営承継がうまくいかないことにもなってしまいます。
     また、上記事例で、元の経営者(親)から生前に贈与を受けたときの株式の価値が3000万円で、その後の後継者Aの頑張りで、元の経営者(親)が亡くなったときに9000万円の価値となっていた場合を考えてみましょう。
     後継者Aとすれば、株式の価値が上昇したのは自分の努力の成果なのだから、遺留分を計算する際は、元の経営者(親)が亡くなったときの9000万円ではなく、せめて贈与時点の3000万円を前提にしてもらいたいと思うでしょう。もしこれがかなえば、B、Cの遺留分はそれぞれ1000万円(6000万円の1/6)に留まります。しかし、現在の民法の解釈では、元の経営者(親)が亡くなった時点での評価をすることとなっていて、前記の通り遺留分はそれぞれ2000万円となってしまいます。これでは、後継者Aもやる気をなくしてしまうかもしれません。
  2. 経営承継円滑化法による遺留分制度の特例
     以上の問題を改善するため、経営承継円滑化法では、中小企業の経営承継の場合で一定の要件を満たす場合は、
    【1】生前贈与をした株式等を遺留分の対象から除外する制度、
    【2】生前贈与した株式等の評価額を予め固定する制度を、民法の特例として認めたのです。
     【1】生前贈与をした株式等を遺留分の対象から除外する制度とは、上記の事例でいうと、A、B、Cが、会社の株式(9000万円)については遺留分の対象にはしないことを合意して、遺留分の対象となるのを預金の3000万円だけとするものです。これにより、B、Cの遺留分はそれぞれ500万円(3000万円の1/6)となり、Aは預金3000万円の中から1000万円を調達することが可能で、株式に手をつけなくても済むことになります。
     【2】生前贈与した株式等の評価額を予め固定する制度とは、上記事例でいうと、A、B、Cが、遺留分の対象となる会社の株式の評価額をその当時の評価額3000万円と定めることを合意して、遺留分の対象となる金額をその範囲で固定するものです。これにより、B、Cの遺留分はそれぞれ1000万円(6000万円の1/6)となり、Aは預金3000万円の中から2000万円を調達することが可能で、株式に手をつけなくても済むことになりますし、何より株式の評価の増加分はAのものとなるのですから、後継者として頑張りがいがあるというものです。この場合株式の評価が下がっても合意した金額に拘束されますので、やはりAとしては頑張らざるを得ないでしょう。
  3. 資金支援措置
     後継者が経営を承継する場合には、相続税の負担があったり、事業用資産の集約のために他の相続人からその資産を購入したりする必要があったり、また親族による承継ではなく従業員による承継などの場合も株式の買取資金が必要であったりと、要するに後継者は資金が必要になります。
     そこで、円滑化法は、経済産業大臣の認定により、中小企業信用保険法の特例、株式会社日本政策金融公庫法及び沖縄振興開発金融公庫法の特例、相続税についての必要な措置を受けられるようにして、資金支援のための措置を図っています。

H20.10掲載