中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

7年前の上司に対する暴行傷害を理由とする懲戒解雇

はじめに

従業員が職場で上司に対し暴行事件を起こす、ということもないではないと思います。このようなとき会社としては適時に適切な手続きをとらないと、思わぬ結果となることも。

【ケース】

甲と乙は、A会社の従業員、丙は課長代理です。甲と乙は就業時間中、2日間連続して丙に対し暴行を加え、乙はその4ヵ月後にも丙に対する暴行事件を起しました。

7年前の上司に対する暴行傷害を理由とする懲戒解雇
Q.一体どんな暴行事件だったのですか

第1の事件は、甲が丙のネクタイや襟を掴んで壁に押し付け、乙はこれに加勢をしたというもの、第2の事件は、甲が丙の膝を蹴り上げ、襟を掴んで首を締め上げたり、右手小指を掴んでねじりあげたりしたというものです。乙も丙の服を掴んだりしました。これにより丙は頚部捻挫、左膝挫傷、右小指挫傷の怪我を負いました。第3事件は、乙が左手で丙の首に手を回し、右手でその腹部を殴打するというものでした。

Q.どうして甲と乙はそんな事件を起したのですか。

第1と第2の事件は、乙が体調不良を理由にして工場を欠勤し、翌日有給休暇に振り替えようとした際、丙がこれを認めず賃金を一部減額したことで感情的な対立が発生したことが発端です。第3の事件も乙が風邪を理由に欠勤した際、丙が有給休暇に振り替えることを認めなかったことが原因です。

Q.会社はどのような措置をとったのですか

A会社は、調査を行い、目撃者に報告書を出させるなどし、甲及び乙に対し猛省を促すとともに、懲戒処分を含む責任追及の権利を留保する旨の通告書を出しました。

Q.被害者の丙は何らかの措置をとったのですか

警察署や検察庁に被害届や告訴状を提出しました。

Q.告訴状等が出されたことで、会社の対応に変化があったのですか。

A会社は警察や検察庁の処分結果を待って、甲と乙の処分を決定することにしました。

Q.警察や検察庁の処分はすぐ出たのですか。

いいえ。なかなか出ず、7年後にようやく不起訴処分となりました。

Q.不起訴処分とは何ですか

刑事処罰を求めないというものです。その理由の詳細はわかりません。もっとも暴行事件等何らかの犯罪があっても、全てが起訴されたり罰金が科されたりするわけではなく、不起訴で終わる例は結構あるのです。

Q.へえ。それは知りませんでした。それにしても検察庁の判断は遅いですね。それはさておき、不起訴となった後、会社は何らかの行動に出たのですか。

あらためて甲と乙に対する処分の検討をはじめ、就業規則上、懲戒解雇事由として「故意に業務を妨害したとき」「会社内で暴行を行なったとき」があげられていることから、甲と乙に対し、退職届を出すように勧告し、退職届を出せば自己都合退職の例により退職金を支払うが、出されないときは懲戒解雇とする旨の諭旨退職処分を行ないました。

Q.甲と乙はこれを争ったわけですね。

そうです。

Q.裁判所の判断はどうだったのですか。

裁判所の判断は分かれました。地裁では、懲戒解雇は無効と判断しました。その理由は、傷害事件が発生して極めて長い年月を経て解雇されたもので、不自然な点がある、暴行の内容も会社主張のとおり認められないというものでした。

Q.高裁はひっくり返したのですか?

そうです。高裁は、暴行の事実は認められ、これは懲戒解雇事由となる、事件から解雇処分まで長い期間がたっているが、会社は捜査の結果をまっていたもので、放置していたわけではない、と判断し、解雇は有効と判断しました。

Q.最高裁の判断はどうだったのですか

高裁の判断をひっくり返しました。再逆転です。最高裁は、本件は、就業時間中に管理職に対して行なわれた暴行事件であり、被害者のほかにも目撃者が存在したことから、捜査の結果を待たなくても使用者において処分を決めることは十分に可能であった、諭旨解雇処分をした時点では企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行なうことを必要とする状況はなかったことから、事件から7年後になされた諭旨解雇処分は重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くと判断しました(最判平成18年10月6日)。

終わりに

懲戒解雇権の行使について法的には何の期間制限は設けられていないものの、適時に行なう必要があります。

H19.04掲載