中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

問題のある社員を解雇するには

問題を抱えた従業員を解雇したいと思った場合、どのような対応をすればいいでしょうか。

不当解雇であるとして従業員が労働基準監督署に駆け込んだあとに事後的に対処しようとしても、そこからの選択肢は限られています。解雇したあとで悩むよりも、普段から細かいトラブルに正しい手順で対応したうえで、やむを得ない場合にかぎり、解雇という最後の手段を用いるというのが、正しい方策といえるでしょう。

ひとことで、問題を抱えているといっても、その内容は様々ですので、

  1. 労働能力に問題がある場合
  2. 懲戒事由に該当するような非行がある場合
  3. 健康状態に問題を抱えている場合
  4. 破産など経済的に問題を抱えている場合

などに分けて、正しい対処方法を検討してみましょう。

なお、解雇を行う場合には、それが経営秩序違反に対する制裁として行われるいわゆる懲戒解雇であろうと、それ以外の普通解雇(通常解雇)であろうと、原則として就業規則(もしくは労働協約)において、解雇事由が定められていることが必要となります。そこで、問題が顕在化する前に、就業規則にきちんとした定めが置かれているかをチェックしておくことをお勧めします。特に、従業員が10人未満の場合、就業規則の作成義務はありませんが、このような場面では就業規則が大きな意味を持ちますので、義務がない場合でも、就業規則を作成しておくことが望ましいことは間違いありません。

問題を抱えた従業員を解雇したいと思った場合、どのような対応をすればいいでしょうか。

労働能力に問題がある場合

就業規則に「勤務成績又は能率が不良で就業に適しないと認められる場合」などと規定がある場合、成績不良等を理由として普通解雇できる場合があります。ただし、経営者から見て、労働能力に問題があると感じられたとしても、それが漠然とした直感に基づくものにすぎないのであれば、あとで客観的・合理的な視点から見て、不当解雇と言われても反論ができません。まずは、労働能力についての評価の基準を明確にしたうえで、そこに達していないことが照明できるような資料を集めておくことが必要となります。

また、労働能力が劣っているとしても、いきなり解雇を言い渡すことは避けなければなりません。まずは、改善のための注意・指導をしたうえで、解雇もありうる旨の警告を伴った観察期間を設けるなどして、従業員が努力により労働能力を向上させることのできる時間的余裕を与えることが必要です。判例においても、「解雇事由は極めて限定的であって、労働能力が平均的な水準に達していないというだけでは解雇理由として不十分であり、著しく能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としたものがあります。

懲戒事由に該当するような非行がある場合

就業規則等の懲戒事由に該当するような非行がある場合でもいきなり解雇すれば、解雇が無効と判断される可能性は否定できません。

従業員に反省の機会を与えるとともに、解雇したあとその正当性を基礎付ける資料とするため、問題を起こした従業員にはこまめに始末書を提出させたり、書面による注意をして、それを資料を残しておくことが重要です。口頭による注意だけではいざ裁判となった場合に、解雇の正当性を立証することができず、解雇が無効とされてしまうことにもなりかねません。

また、解雇は懲戒処分のなかでも最も不利益の大きな処分ですから、減給や降格など他の軽い処分を用いたあとでなければ、無効とされる可能性があります。判例でも、1年5ヶ月の間に180回もの無届遅刻を繰り返した事例において、それまで無届遅刻により他の軽い懲戒処分をされたことがなかったのであるから、段階を踏むことなくなされた懲戒解雇は無効との判断がなされているものがあります。

なお、懲戒解雇であっても、所轄労働基準監督署の署長による解雇予告除外認定を受けない限り、普通解雇の場合と同様、解雇予告手当を支払わなければなりません。この点、誤解しがちですので注意をしてください。

健康状態に問題がある場合

健康状態に問題があり、長期にわたって働くことが困難もしくは不可能となる場合には、労働契約を継続しがたいやむをえない事由があるとして普通解雇が認められる場合があります。しかし、いきなり解雇とするとあとで無効と判断される可能性があります。就業規則等において、傷病休職制度が定められている場合、将来回復する可能性が全くなかったり、定められた休職期間では回復の見込みが乏しい長期の療養を要する病気である場合を除いて、これらの制度を利用して健康状態の回復を待つほうが無難でしょう。なお、労働基準法においては、労働者が業務上負傷したり、疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後の30日間は、解雇をなしえないとされていますので、この規定に違反しないようにすることも必要です。

また、病気等により体力が低下した場合でも、軽作業のポストが準備できる場合には配置転換等を行い、雇用を継続する努力をすることも必要とされます。

社員が破産した場合

従業員が破産など経済的な問題を抱えている場合、解雇することができるでしょうか。結論からいうと、このような理由での解雇は許されません。従業員個人の破産は、あくまで従業員のプライベートの問題にすぎず、従業員が会社に提供する労務の内容には何ら影響を与えることはないと考えられるからです。従って、多額の債務があるとか、破産の申立てをしたというような事情だけでは、社員を解雇することは許されません。

では、会社に対し、サラ金業者などから電話がかかってきた場合はどうでしょうか。確かに、従業員のプライベートの問題で電話がかかってくるのは、会社としては迷惑なことですが、そのような取立て行為を行うサラ金業者のモラルことが問われるべきであり、このことをもって従業員を解雇しても、争われればその解雇は無効とならざるをえないでしょう。同様に、従業員の給料が差し押さえをうけたとしても、解雇が許されることはありえないので、冷静な対応が必要です。

もちろん、経済的な問題を抱えた従業員を、直接お金を扱うような部署においておくことには不安があることは否定できません。しかし、このような不安は配置転換をするなどして、直接お金を扱わない仕事を担当してもらえばすむ問題ですので、解雇を正当化する理由とはなりえないことを覚えて置いてください。

H18.11掲載