中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

中小企業における新会社法活用方法(機関設計)

機関設計の柔軟化

平成18年5月1日、会社法が施行されました。

旧商法では、大規模な公開会社が株式会社制度を利用し、小規模な非公開会社が有限会社制度を利用することが想定されていましたが、現実には、多くの小規模な非公開会社が株式会社制度を利用したため、株式会社制度における取締役の人数制限・任期・取締役会の設置義務などの厳格な規定と現実の会社運営との間に、乖離が生ずることがままありました。

そこで、会社法においては、有限会社制度を廃止して株式会社制度に一本化したうえ、会社が各々実態に応じた機関設計を柔軟に選択できるよう改められました。

旧商法・会社法上の小規模な非公開会社における機関設計を比較すると、次のとおりとなります。

(1)旧商法

旧商法では、会社の規模に応じて、次の機関設計が基本形態として認められていました(大会社については記載を省略しています。)。

  1. 中会社(資本金1億円超5億円未満かつ負債総額200億円未満)
    株主総会+取締役会+監査役
  2. 小会社(資本金1億円以下かつ負債総額200億円未満)
    株主総会+取締役会+監査役(会計監査権限のみ)
  3. 有限会社
    株主総会+取締役(+監査役を任意に設置)
中小企業における新会社法活用方法(機関設計)

(2)会社法

会社法においては、従来の資本金額・負債総額という会社の規模(資本金5億円超または負債総額200億円超の「大会社」・それ以外の「非大会社」)による基準に加え、株式譲渡制限の有無(「公開」・「非公開」)による基準も加えられました。

(会社法で認められる「非大会社」かつ「非公開会社」における機関設計は、次のとおりです(「公開会社」ないし「大会社」については記載を省略しています。)。

  1. 取締役(+会計参与)
  2. 取締役+監査役(+会計参与)
  3. 取締役+監査役+会計監査人(+会計参与)
  4. 取締役会+会計参与
  5. 取締役会+監査役(+会計参与)
  6. 取締役会+監査役会(+会計参与)
  7. 取締役会+監査役+会計監査人(+会計参与)
  8. 取締役会+監査役会+会計監査人(+会計参与)
  9. 取締役会+3委員会+会計監査人(+会計参与)

定款変更・変更登記を行わなかった場合

会社法の下、機関設計を変えるには、定款変更及び変更登記をすることが必要となりますが、定款変更及び変更登記を行わなかった場合には、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(いわゆる整備法)のみなし規定により、取締役会や監査役を設置する旨の定款の定め及び登記がされたものとみなされることとなり、また、有限会社についても、特例有限会社として存続することとなるため、従前の機関設計が維持されることとなります。

すなわち、何もしなければ、新会社法施行後においても、機関設計は従前のままというのが原則です。

積極的な機関設計方法

会社法施行後においてもなお、代表取締役以外の取締役は名目だけ、監査役も名目だけ、取締役会を開催したことがないなど、法令遵守上、問題を抱え続けている会社も多いと思います。

そこで、オーナー会社など、株主自らが経営に関する意思決定を行っている会社においては、現実の会社運営に機関設計を合わせるべく、取締役会の非設置、監査役の非設置といった機関設計を検討してみてはいかがでしょうか。

  1. 取締役会の非設置
     取締役会設置会社においては、取締役の員数は3名以上でなければならず、監査役または会計参与の設置が義務付けられます。なお、会計参与とは、会社法で新設された、取締役と共同して計算書類等を作成する公認会計士・税理士の資格を有する機関をいいます。
     しかしながら、取締役会非設置会社においては、取締役の員数は1名でもよく、監査役の設置も義務付けられません。これにより、従前のように、名目だけの取締役や取締役会を置く必要はなくなり、機動的な会社運営が可能になります。
     ただし、取締役会非設置会社においては、株主総会にて、会社の組織・運営・管理等株式会社に関する一切の事項の決議が可能となるため、取締役会設置会社と比べ、株主の経営への関与権限が強まることとなります。したがって、身内以外に株主がいる場合などには、従前どおり取締役会を設置していた方が、かえって機動的な会社運営が可能となる場合もありうるため注意が必要です。
  2. 監査役の非設置
     取締役会非設置会社においては、監査役の設置が義務付けられません。したがって、名目だけの監査役を設置する必要はなくなります。
     ただし、監査役非設置会社においては、監査役に代わって、株主が、直接、取締役の業務執行を監督する仕組みが採られているため、株主に、裁判所の許可なしの取締役会議事録閲覧・謄写請求権が認められるなど、強い監督権限が与えられています。したがって、身内以外に株主がいる場合には、かえって取締役の負担が重くなる場合もありうるため注意が必要です。
    また、監査役非設置会社においては、計算書類等について法定の機関による監査を受ける必要がなくなりますが、これは、計算書類等の信頼性に重大な影響を及ぼしうるため、金融機関から融資を受けにくくなる等の影響が出てくる可能性も考えられます。
  3. 取締役の任期の伸長
     旧商法同様、会社法でも、取締役の任期は原則として2年ですが、非公開会社においては、取締役の任期を最長10年まで伸長することが可能となりました。
     また、会社法上、監査役の任期は原則として4年ですが、非公開会社においては、監査役の任期を10年まで伸長することも可能となりました。
     これにより、取締役や監査役の再任に関する登記費用を節約することも可能となります。

機関設計見直しのすすめ

以上、積極的な機関設計方法の一例を挙げましたが、その他にも、会社法においては、機関設計に関する改正が多々行われています。

会社法への改正は、大会社のためのものと考えがちですが、実際にはむしろ、中小企業のためのものといえます。

旧商法下では不可能だった機関設計が、会社法では可能となっている可能性もありますので、これを機に一度、機関設計を見直してみてはいかがでしょうか。

H18.12掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。