中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

時間外手当について

はじめに

時間外手当は、ほとんどの企業が支払っていると思います。法定の労働時間どおりで事足りていることは稀だからです。しかし、必ずしも正確に運用されていないようです。名ばかり「店長」に残業代が支払われていないケースとして、日本マクドナルド事件がありましたが、これに関しては既に前記事によって解説が加えられていますので、本稿ではもっと基本的なことをお話しすることとしましょう。

時間外手当について

違反するとどうなるか

まず最初に、法律に違反するとどうなるかについてお話しておきます。会社経営者としては、コンプライアンスの観点から、法律どおり、時間外手当をきちんと支払わなければならないのは当然ですが、もし、支払いがなされていないこととなると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられてしまいます(労働基準法119条、37条。)こうしたことにならぬように、時間外手当について正確に理解しておく必要があります。

時間外労働とは何かを正確に理解しましょう

では、時間外労働とは何か。具体的に考えてみましょう。

ケース1

甲会社では、就業規則上、就業時間は、午前9時から午後5時まで、昼休みは午後0時から午後1時までとしていた。甲会社の従業員Aが午前9時から午後6時まで働いた場合、甲会社は1時間の時間外手当を支払わなければならないか。

上記のような就業規則を定めている会社がとても多いのではないでしょうか。さて、この場合、法律上、甲会社は時間外手当を支払う必要はありません。意外に思われる読者も多いと思いますが、その理由は次のとおりです。つまり、「時間外労働」とは、1日または1週の「法定労働時間」をこえる労働をいいます。労働基準法は、「法定労働時間」を1週40時間、1日8時間と定めています(法32条)。<ケース1>では、実際の労働時間は8時間で、これは就業規則で定める就業時間をこえています。しかし、「法定労働時間」である8時間をこえていません。したがって、Aさんは時間外労働をしておらず、時間外手当を支払う義務は会社にはないのです。

しかし、次に、甲会社の就業規則をチェックする必要があります。もし、甲会社の就業規則が、午前9時から午後5時までの業務時間を就労時間とし、これを越えて労働に従事させた場合、「時間外手当」を支払う、と規定していれば、会社は、就業規則に基づき、時間外手当を支払う義務があるのです。

割増賃金の割増率は幾らか

では、割増賃金の割増率は幾らとなるでしょうか。

ケース2

  1. Aは、平日に時間外労働を1時間した。
  2. Aは、平日に深夜労働を1時間した。
  3. Aは、日曜日に休日労働を1時間した。
  4. Aは、日曜日に午前9時から午後6時まで働いた。
    *就業規則で「午前9時から午後5時までの就業時間をこえて労働させた場合は、時間外手当を支給する」という規定があるものとします。
  5. Aは、日曜日に深夜労働を1時間した。

(1)は、2割5分以上の割増となります(法37条1項、割増賃金令)。

(2)も、2割5分以上の割増です。深夜労働とは、午後10時から午前5時までの労働をいいます(法37条3項、割増賃金令)。

(3)は、3割5分以上の割増となります(法37条1項、割増賃金令)。

(4)は、午前9時から午後5時までの分は、(3)と同じで3割5分以上です。

間違いやすいのは、午後5時から午後6時までの分です。この場合、休日労働に時間外労働が加わりますが、割増は3割5分以上でよいものとされています。休日労働には休日労働に関する規制のみが及び、時間外労働に関する規制は及ばないからです。

(5)は、休日労働に深夜労働が加わります。割増は6割以上となります。

ケース3

甲会社の管理職B部長が深夜労働に従事した。会社は割増賃金を支払わなければならないか

正解は、「支払う必要がある」です。この場合、Bは管理職なので残業代は支払われないと誤解している方が多いのではないでしょうか。注意してください。

端数時間の処理について

端数時間の処理方法についても注意が必要です。

ケース4

  1. 甲会社は、毎日の時間外労働につき、慣行として30分未満は切り捨てて計算している。
  2. 甲会社は、毎月時間外を集計する際、慣行として30分未満は切り捨て、30分以上1時間は切り上げて計算している。

(1)のように取り扱っている会社は、案外多いようです。しかし、こうした取り扱いは違法です。厳密には、1分でも時間外労働があれば割増賃金を支払うべきものとするのが法の要求するところです。

ただ、(2)のように、毎月の集計の結果につき、30分未満の端数を切り捨て、30分以上1時間未満は切り上げて計算することは、違法とはならない、というのが、通達です。その理由は、「常に労働者に不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから」と説明されています。

H21.05掲載