中小企業の法律相談

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男女雇用機会均等法の改正

近年の少子高齢化の流れに歯止めをかけ、また労働力不足を補うためには、労働者が性別により差別されず、その能力を十分発揮できる雇用環境を整備するとともに、働きながら安心して子どもを産み育てる環境をつくることが極めて重要です。

このような状況の中、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」が改正され、厚生労働省令、指針等と併せて、平成19年4月1日から施行されています。今回は、改正法施行にあたり、事業者が特に注意すべきポイントをご紹介します。

男女雇用機会均等法の改正

1 性差別禁止範囲が拡大されました

  1. 男女双方に対する差別の禁止
    改正前は、女性に対する差別を禁止していましたが、改正法では男女双方に対する性差別を禁止しました。
  2. 差別禁止の対象となる事項の明確化・追加
    これまで、募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・解雇について性による差別的取扱いを禁止していましたが、改正法ではこれらに加え以下の点についても差別を禁止することを明確化しました。
    • 配置に係る業務の配分及び権限の付与
    • 職種の変更
    • 退職の勧奨
    • 降格
    • 雇用形態の変更
    • 労働契約の更新
    具体的にどのような取扱いが差別的と判断されるかについては、厚生労働省の指針(平成18年厚労省告示第614号)で示されています。例えば、女性労働者に対してのみ、経営合理化のための早期退職優遇制度の利用を働きかけることは、退職勧奨にあたっての性的差別として禁止されることになります。
  3. 間接差別の禁止
    均等法制定後、男女別定年制や女性結婚退職制度などの明白な性差別は減少しましたが、例えば、募集の際に、合理性がないにもかかわらず、女性が満たしにくい要件をあえて課すことにより女性の採用を回避する等という、形をかえた差別が問題となっています。 このような問題を踏まえ、改正法及び厚生労働省令では、性差別の形式をとらないが実質的には性別を理由とする差別(間接差別)となるおそれがある措置を禁止することとしました。具体的には以下の措置が禁止されます。
    1. 労働者の募集・採用にあたり、合理的な理由なく、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること
    2. 総合職の募集・採用にあたり、合理的な理由なく、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること、
    3. 労働者の昇進にあたり、合理的な理由なく、転勤の経験があることを要件とすること
    なお、これら以外については、均等法に直接違反するものではありませんが、裁判においては、違法な間接差別と判断される可能性があります。雇用管理に際しては、不合理な差別的取扱いのないよう注意してください。

2 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは禁止です

これまで、女性労働者の妊娠・出産、産休取得を理由とする解雇が禁止されていましたが、退職強要や、正社員からパートへの身分変更の強要など、解雇以外の不利益取扱いにも禁止範囲を拡大する必要があります。

このため、改正法及び厚生労働省令では、妊娠・出産、産休取得、均等法上の母性健康管理措置(時差出勤、勤務軽減、保健指導時間の確保等)や労働基準法上の母性保護措置(軽易作業への転換、時間外・休日・深夜労 働の免除、育児時間取得等)を求めたり当該措置を受けたりしたこと等を理由とする不利益取扱いを禁止しました。

ここでいう不利益取扱いとは、解雇のほか、期間雇用労働者の契約更新拒否、退職強要、正社員から非正規社員への変更強要、降格、不利益な人事考査、不利益な配置変更などが含まれます。

また、妊娠中又は産後1年以内の解雇は、事業主が妊娠等を理由とする解雇でないことを証明しない限り、無効となることが定められました。

3 配慮義務から措置義務へ!セクシュアルハラスメント対策

職場でのセクシュアルハラスメント対策については、これまでも事業主に配慮が求められてきましたが、今回の法改正により、平成19年4月1日からは、雇用管理上必要な措置を講ずることが事業主に義務づけられました。厚生労働省は、指針(平成18年厚労省告示第615号)において、講ずべき措置として次の9項目を挙げ、具体的な措置例を紹介しています。詳しくは厚労省HPをご参照下さい。

事業主の方針の明確化及びその周知啓発

【1】職場におけるセクシュアルハラスメントの内容と、これがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知啓発すること

【2】セクシュアルハラスメントの行為者については厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知啓発すること

相談・苦情に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

【3】相談窓口をあらかじめ定めること

【4】相談窓口の担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。現実にセクシュアルハラスメントが生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、セクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。

事後の迅速かつ適切な対応

【5】事実関係を迅速かつ正確に確認すること

【6】セクシュアルハラスメントの事実が確認できた場合は、行為者及び被害者に対し、適切な措置を行うこと

【7】再発防止に向けた措置を講ずること(セクハラの事実が確認できなかった場合も同様)

【1】~【7】の措置にあたり併せて講ずべき措置

【8】相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずること

【9】相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知啓発すること

これらの措置は、企業の規模や職場の状況の如何を問わず、必ず講じなければなりません。まずは、セクシュアルハラスメントとは何かを定め、就業規則を見直し、相談窓口を定めましょう。小規模な企業であれば、まずは人事担当者の一人を相談窓口とするところから始めてもいいのです。重要なのは、単に形式的に窓口を定めるのではなく、労働者が利用しやすい窓口体制を整え、そのことを周知させることです。また、いざ相談があったときの留意点や対応手順、担当部署を前もってマニュアル化しておけば、適切かつ迅速な対応が可能となるでしょう。何から手をつけてよいかわからなければ、弁護士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。

対策措置を講ずることは手間がかかりますが、この手間が、ゆくゆくは企業価値を高めることにつながります。なお、企業がセクハラ対策を講じず、是正指導にも応じない場合には、厚生労働省による企業名公表の対象ともなります。これを機会に、就業規則等を再点検し、セクシュアルハラスメント防止措置を策定しましょう。

H19.05掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。