中小企業の法律相談

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年棒制度について

近年、国内企業において、従来のいわゆる年功序列賃金体系を改め、仕事の内容や成果を重視して賃金額を決定する動きが広まっているといわれています。その一つが年棒制です。今回は年棒制についてお話しましょう。

年棒制度について

Q.そもそも企業が採用している【年棒制とは】何ですか?

簡単にいうと、「年額をもって賃金を定める場合」ですが、もう少し詳しくいうと、「賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度」とされています。

Q.【プロ野球選手の年棒制】とは違うのですか?

違います。プロ野球選手の場合は一般に、毎年契約更改を行い(したがって、球団には契約を更改しない自由があります)、その際に年棒を決める、というものです。これに対し、一般企業の場合、そこで働くサラリーマンの多くは労働契約の期間の定めがありません(仮に期間の定めがあったとしても、更新が続いていれば、会社は、容易には労働契約を終了させることが困難で、解雇するに値する特別の事情がない限り、複数年にわたって労働契約が継続していきます)。したがって、企業で導入している年棒制は、労働契約そのものは期間の定めがない場合で、もっぱら賃金の額についてのみ1年単位で決定していく、という形態となります。

Q.年棒制の【種類】にはどのようなものがありますか?

確定年棒制と変動型年棒制があります。前者には、年棒額を各月に分割して支払う場合や、一部を通常の賞与支給時に支払う場合があります。後者は、前年度実績により確定した年棒以外に当該年度の実績や会社業績により賞与を支払う場合です。

前者の場合及び後者の確定した年棒部分は、年度途中で賃金額を一方的に引き下げることは許されません(シーエーアイ事件の東京地裁判決等)。

Q.年棒制では、【時間外手当】を支払わないでいいと言われていますが。

それは誤りです。誤解の多い点なので、注意が必要です。

一般的に、会社は、管理監督者及び裁量労働者に対しては、時間外手当を支払う必要がありません(労基法41条2号、38条の3、4)が、これらの者以外の場合は支払う必要があります(同37条)。このことは年棒制を導入している会社も同様で、その者が管理監督者の場合及び裁量労働者の場合は残業手当を支払う必要がありませんが、そうでない限り、時間外手当を支払わなければならないのです。

ここで、管理・監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者とされ、管理・監督者か否かは付された名称ではなく、実態に即して判断されます。したがって、例えば、「店長」とされていても、勤務について時間管理を受けていれば、管理・監督者であることは否定されることに注意してください(カラオケ店やレストラン、コンビニの「店長」は管理監督者ではないと判断した下級審判例あり)。

要するに、年棒制を導入しているということ自体で、時間外労働の割増賃金支払義務を免れることはできない、ということです。

なお、深夜割増賃金については、管理・監督者に対しても支払う必要があります(原則)ので、年棒制を採用していても、深夜割増賃金は支払う必要がある(原則)、ということになります。

Q.年棒制をめぐっては、どのような【紛争】がありますか。

第1は、年棒制を新たに導入したために、賃金が減額となった場合に、就業規則の不利益変更禁止の原則に抵触し、かかる制度変更は無効ではないのか、というものです。

就業規則不利益変更禁止の原則とは、会社が一方的に就業規則を労働者に不利益に変更することは許されず、合理的理由がある場合に限って有効であるとするルールです。

合理性の有無は、

  1. 労働者の被る不利益の程度、
  2. 会社側の変更の必要性の内容・程度、
  3. 変更内容の相当性、代償措置の内容、
  4. 労働組合等との交渉経緯、
  5. 我が国における一般的状況によって判断する

というのが最高裁の判例です。年棒制についても同様に考えられます。

下級審判例ですが、ハクスイテック事件で、大阪高裁は、

  1. 月額40万円の給与が1万円程度低下するが、その不利益の程度は低いこと、
  2. 会社の経営状況が赤字であること、
  3. 8割程度の従業員は賃金が増額しており、減額となる者についても、減額分を調整給としたり、1年間から10年間は減額補償制度を設けるなどの代償措置を講じていること、

などから、新たな賃金制度への変更に合理性を認め、これを有効としました(大阪高判平成13年8月30日)

第2は、会社が年棒制を導入しようとしたが、労使で合意が得られない場合、年棒額はどうなるのか、という問題です。

一審の裁判所は、前年度実績の給与をとりあえず継続して支給すべきこととなると判断し、控訴審でも同様の見解が示されました(東京高判平成20年4月9日)

会社は、経営環境の激変に対応していく必要がありますが、その場合、法律をよく勉強しておく必要があります。

H21.12掲載