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土壌汚染が判明したら

土壌汚染対策法の見直し

かつて、我が国における土壌汚染対策は、環境基準や、調査・対策の指針、事業者に対する行政指導という形での取組みに留まっていました。しかし、近年、環境管理の一環として自主的に汚染調査を行う事業者が増加し、また工場跡地の売却の際に調査を行う商慣行が広がったこともあって、土壌汚染が判明する事例が急増し、土壌汚染対策の制度化が必要となってきました。このような状況を踏まえ、平成15年2月に土壌汚染対策法が施行されました。

「土壌汚染が判明したら」

法施行後、判明した問題点について見直し作業が進み、平成21年3月に改正法が成立し、平成22年4月から施行されています。

旧法では、一定の場合に土壌汚染調査の法的義務を課し、これに基づく調査(法律調査)の結果汚染が発見された場合に、都道府県知事の指示に従った土壌汚染対策(土壌除去、土壌入替、封じ込め、立入制限、盛土、舗装など)を行うことが必要と定められていました。

ところが、法施行後の実態をみると、法的義務がないのに自主的に汚染調査を行う(自主調査)ことが大半で、法律調査はごくわずかだったことが判明しました。自主調査で汚染が判明しても、旧法では都道府県へ報告する制度がなかったため、都道府県が適切な土壌汚染対策を指示できず、汚染状況の把握も困難でした。このため、当事者が「土壌汚染」という言葉に過剰に反応しすぎ、わずかな土壌汚染が判明しただけでも、すぐに土壌の掘削除去にこだわる結果となり、搬出された土壌からかえって汚染をまき散らしているおそれがあることが分かりました。また、旧法では、搬出された汚染土壌について都道府県が把握する制度がなく、運搬や処理の基準も不十分で、汚染土壌の処理が適正に行われていない例が見られました。

このような問題点を踏まえ、

  1. 行政による汚染状況把握のための制度整備、
  2. 規制対象区域分類による必要な汚染対策の明確化、
  3. 搬出土壌の適正処理の確保

という3つの観点から、見直しされたのが改正土壌汚染対策法です。

どんな場合に土壌汚染調査・報告義務が生じるか

土地所有者等は、次の場合に土壌汚染状況について調査・報告する義務を負います。

  1. 水質汚濁防止法の定める有害物質使用特定施設である工場などの使用を廃止した場合
  2. 土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると都道府県知事が認めたとき
  3. 3000平方メートル以上の土地形質変更の届出時に、都道府県知事がその土地に土壌汚染のおそれがあるとみなすとき

ただし、3の場合でも、軽易な変更(敷地外への土壌搬出・流出がなく、かつ掘削深度50cm未満)や非常災害のために必要な応急措置の場合は届出の対象外となります。

【自主調査で汚染が判明したら】

自主調査で土壌汚染が確認された場合、法的な届出義務はありません(但し条例で届出を義務付けている自治体もあり)。

土地所有者等が自主的に調査結果を申請することはでき、これによって、後述する「形質変更時要届出区域」や「要措置区域」の指定を受けることができます。

【汚染が判明した場合の土地所有者の対応】

法律調査や自主調査の結果が都道府県知事に報告され、土壌汚染のおそれがあると認められると、その土地は、【1】直ちに除去等の措置を要しない「形質変更時要届出区域」と、【2】すぐに対策が必要な「要措置区域」に分類して指定されます。

【1】「形質変更時要届出区域」は、健康被害の観点で当面の対策をとる必要まではないが、土地形質変更時に届出が必要になるものです。

これに対して、土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがあると認めたときは、【2】「要措置区域」となり、土地所有者等に対し、汚染の除去等の措置を講ずるよう命令が出されます。都道府県知事が必要な汚染対策(土壌除去、土壌入替、封じ込め、立入制限、盛土、舗装など)を指示しますので、この指示に従い対策を行います(指示を超える対策も可)。

土地所有者が汚染対策を講じた場合、汚染原因者に対し、要した費用を請求できます。対策実行後は、要措置区域の指定が解かれることになります。

そのほか、土地所有者が注意すべき点は、搬出土壌の適正処理の確保です。「形質変更時要届出区域」「要措置区域」における土壌搬出には、事前届出が必要になります。それに、許可を受けた搬出土壌処理業者に依頼して掘削から処理までの管理を行わなければなりません。

【土地購入後に土壌汚染を発見したら】

昨今は、大規模土地の売買の際や、従前の土地利用状況から汚染が疑われるような場合には、売買契約前に、予め土壌汚染防止法に準じた方法で調査が行われることが増えました。しかし、それでも購入後に土壌汚染が発見される場合もあります。

売買土地から土壌汚染対策法の基準値を超過する土壌汚染が検出された場合、これが隠れたる瑕疵といえるかが争われた事案で、東京地裁平成18年9月5日判決は、当該基準値は健康被害防止のための措置を実施する上での目安となり、基準値を超過した場合には健康被害等が発生する蓋然性が認められること、汚染土地の利用方法が制限され経済的効用・交換価値が低下すること等を理由として、瑕疵該当性を認めました。

売買契約上、瑕疵担保責任の行使期間を制限したり、免責特約を規定している場合もありますが、売主に、土壌汚染に対する悪意や重過失が認められれば、それでもなお瑕疵担保責任を問う余地があります。

また、売主において土壌汚染が生じていることの認識がない場合でも、土壌汚染を発生させる蓋然性のある方法で土地の利用を行っていたときには、土地の来歴・利用方法について買主に説明すべき信義則上の付随義務を負うべき場合もあるとして、説明義務を肯定した裁判例もあります(東京地裁平成18年9月5日判決)。

このように、土壌汚染対策法の基準を超過した汚染が認められた場合には瑕疵該当性が肯定されるのが裁判例上の趨勢ではありますが、土地を購入するにあたっては、土壌汚染対策法の基準を超過した場合には瑕疵に該当するとか、対策費用を売主負担とするというような契約条項を設けることも検討すべきでしょう。また瑕疵担保責任期間の制限条項や免責規定についても十分注意を払う必要があります。

さらに、商人間の売買では、特約がなければ、直ちに発見できない瑕疵があった場合でも、買主は引渡し後6カ月以内に瑕疵を発見して通知しなければならず、買主がこの期間内に瑕疵を発見できなければ、過失の有無を問わず売主に対して権利を行使できません(商法526条)。土壌汚染は引渡し後6カ月で発見できない場合も多いと思われますので、土壌汚染に関しては商法526条の規定を排除する、というような特約を検討すべきと思われます。

H22.10掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。