中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

震災による不可抗力と事情変更

このたびの東北関東大震災では、想像を絶する地震と津波によってたくさんの尊い人命が失われ、また東日本の各地が瓦礫の山と化しました。この原稿を書いている今も復興の兆しは見えません。被災者の皆様には心よりお見舞い申し上げます。 そして、直接被害を受けた東日本が大打撃を受けたのはもちろんのこと、地理的には遠く離れた九州地方の企業も、直接間接の影響を受けないではいられない状況となっています。そこで、今回は、取引関係において間接的に災害の影響を受けた場合の法律問題について考えてみたいと思います。

震災による不可抗力と事情変更
Q.納期までに商品を製造して納めるという契約をしていましたが、災害のため材料を予定通り調達できず、納期に間に合いませんでした。履行遅滞による違約金を支払わなければならないのでしょうか。

契約の履行遅滞(民法412条)とは、債務者が契約期限(履行期)を徒過した場合で、これが債務者の責に帰すべき事由に基づき、また履行しないことが違法である場合に、債務者が損害賠償義務を負担したり、債権者が契約を解除できるというものです。

つまり、履行遅滞として債務者が責任を負うのは、あくまで、債務者の過失のために履行期に間に合わなかった場合です。災害によって材料が調達できないという場合には、まさに不可抗力によるものですから、債務者に過失がなく、履行遅滞の責任が発生しないものと考えられます。とはいえ、いつまでも履行しなくてよいわけではなく、材料を調達できる状況が整い次第、できるだけ迅速に対応することが必要になるでしょう。そのような対応をしている限りは、違約金の支払義務は生じないものと考えられます。

もっとも、契約書で、履行を保証していると解釈されるような場合は、責任が発生する場合もありますので、契約書の記載をよく確認することが必要です。

Q.取引先が被災したために取引がキャンセルとなり、入るはずだった売上金がまったく入らない見通しになりました。このため仕入先に約束通りの時期にお金を支払うことができません。不可抗力なので遅延損害金を払いたくないのですが。

民法は金銭債務について特則を定めており、金銭を支払うという債務の不履行・延滞に関しては、不可抗力が原因であっても遅延損害金を免れることができません(民法419条2項)。

Q.震災の影響で材料の仕入れ値が高騰したため、契約通りの代金をもらっても大損失が出てしまう見通しです。事情があまりに激変したので、代金の値上げを要求できないでしょうか。

契約は守られなければならないというのが契約法の大原則です。他方、特に長期間継続する契約においては、契約締結後になって、締結時には当事者が予見できなかった事態が生じることがあります。契約締結後において、締結時に定めた契約内容通りの履行を当事者に強制することが著しく不公平であるという事情が生じた場合には、契約内容の変更や契約解除を認めるべきであるという考え方を、「事情変更の法理」といいます。

しかしながら、この事情変更の法理によって契約内容の変更が認められた例は大変少ないのが実情です。下級審では認めた例も若干ありますが、最高裁は、理論上は事情変更が認められる余地があるとしながら、実際の事案では結局これを認めていません。バブル期に土地の売買予約が成立した後、すぐに地価が6倍に高騰したという事案でも、売買代金の変更なく予約完結権を行使できるとしていますし(最高裁昭和56年6月16日判決)、家屋の売買契約において、売主の居宅が戦災によって焼失したので、売買の目的だった家屋に住む必要が生じたということを理由とした売買契約解除も認めませんでした(最高裁昭和29年1月28日判決)。

このように、一般的には事情変更の法理が認められる余地は非常に少ないのですが、契約書において、経済事情の激変などによって代金額が明らかに適当でないと認められるときには代金の変更を求めることができると定めている場合があります。建築請負契約における民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款などがそうです。このような条項を手掛かりに、まずは契約の相手方とよく話し合うことが重要です。

Q.倉庫業者に商品を預けておいたところ、震災のために使い物にならなくなったとの報告を受けました。倉庫業者は不可抗力だと言っていますが、事情はよくわかりません。倉庫業者に賠償を求めることはできないでしょうか。

商法617条は、倉庫業者が預かった物(受寄物)が滅失・毀損した場合、倉庫業者は、受寄物の保管に関して故意・過失がないことを立証しない限り、損害賠償の責任を免れないとしています。しかし他方で、標準倉庫寄託約款は、受寄物が滅失・毀損した場合でも、倉庫業者が責任を負うのは故意・重過失がある場合に限るとし、またその立証責任を預けた側(寄託者側)に転換させる特約(免責特約)が定められ、倉庫業者が責任を負う範囲を制限しています。古い下級審裁判例ですが、このような免責特約も有効であるとしたものがあります(東京地裁昭和34年6月23日判決)。

したがって、このような約款が使用されていた場合には、商品を預けた側が、倉庫業者の重過失を立証しなくてはならない可能性があり、商品の毀損が震災に起因するケースでは、賠償を求めることは容易でありません。

もっとも、震災が発端となっている場合でも、倉庫業者がわずかな注意を払えば毀損しなかったとか、被害の拡大を防止できたということができれば、賠償を受けられる余地はありますので、事情をよく調べる必要があるでしょう。また損害保険による対応を受けられないかも検討することになります。

最後に

未曾有の災害に見舞われた日本ですが、九州を始めとする西日本が先頭に立って経済活動を担い、復興の足がかりとなるよう努力したいものです。

H23.5掲載