中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

掲示板サイト等ネットでの誹謗中傷への対応

情報の入手方法としてインターネットというのは本当に便利なものです。インターネットがこれほどまでに社会に浸透したのは、その利便性に加えて、情報量の多さにあります。その情報量の多さを支えているのが、情報発信の容易性です。とりわけ、匿名性のある状態での情報提供が可能となったことは、情報発信する際の心理的な抵抗をなくしているように思えます。しかし、それだけにネット上の情報というのは、まさに玉石混交となります。したがって、情報を入手する側としては、その情報の価値というのを自ら判断していく必要があるのですが、なかなか簡単ではありません。「ネット上の情報は全て事実である」とまでは思わないにしても、「火のないところに煙は立たない」、「少なくとも根も葉もないことでもないだろう」くらいには感じてしまうこともあるかもしれません。となると、ネット上の誹謗中傷というのは、「言わせたい人には言わせておけばいい」と簡単に割り切れない場合も出てくることでしょう。さらには、企業に対する誹謗中傷が業務に影響するといったこともありえないことではありません。

そこで、不幸にして、ネット上に誹謗中傷する書き込みなどがされた場合は、どのような対応方法があるのかを考えてみましょう。

掲示板サイト等ネットでの誹謗中傷への対応

書き込みの削除の請求

まず、何より、誹謗中傷の書き込みを削除させることが考えられるべきです。

サイトによっては、削除システムがあり、比較的簡単に書き込みを削除できる場合もあります。そのような方法で削除ができない場合は、掲示板サイトの管理者、運営者に対し、内容証明郵便で削除を請求する方法が考えられます。

このような掲示板サイトの管理者、運営者を対象とする法律にプロバイダ責任制限法(正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます)というものがあります。誤解されることが多いのですが、この法律は、文字通り、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任を「制限する」ものであって、この法律があることによって管理者、運営者が誹謗中傷を内容とする書き込みによる損害賠償責任を負うものではありません。損害賠償責任は、民法709条に基づく不法行為責任であり、その責任を制限するのがプロバイダ責任制限法ということになります。

どのような責任制限をしているかというと、管理者、運営者が書き込みの削除をすることが技術的に可能で、問題となる情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っているか、知ることができたと認められる相当の理由がある場合でなければ、書き込みの削除をしなかったとしても損害賠償責任を負わないとしています(プロバイダ責任制限法第3条1項)。

したがって、内容証明郵便を出す際は、「問題となる情報の流通によって他人の権利が侵害されていること」を管理者、運営者に知らせるということを意識する必要があります。そして、だからこそ、通常の郵便ではなく、後日の証拠のために、内容証明郵便でしておくことが必要になるのです。

このように内容証明郵便で削除請求しても、削除に応じない場合は、仮処分等の法的手続を考えていくしかありません。

発信者への損害賠償等の請求

誹謗中傷の書き込みは、掲示板の管理者や運営者がしているわけではなく、書き込みをした本人(加害者)がいるのであって、本来は、この加害者に対し損害賠償や書き込みの差し止めを求めたいところです。ところが、掲示板の書き込みは匿名でされているのが通常で、サイトを閲覧しただけでは加害者を特定することは不可能です。

では、加害者の特定はどのようにしたらいいのでしょうか。

前述のプロバイダ責任制限法は、侵害情報の流通によって権利が侵害されたことが明らかであったり、加害者への損害賠償請求行使のために必要である場合などには、管理者等に対し、情報の発信者の氏名、住所等の発信者の特定ができる情報の開示を請求することができるとしています(プロバイダ責任制限法第4条1項)。

もっとも、管理者や運営者も書き込みをした者の氏名や住所を知っていることは少ないはずです。そこで、有効なのは、侵害情報を書き込んだ際にプロバイダが発信者に割り当てていたIPアドレス、当該IPアドレスから侵害情報が送信された年月日及び時刻の開示請求です。これによりプロバイダが判明すれば、そのプロバイダに当該IPアドレスが割り当てられた者の氏名、住所の開示を請求するのです。

このようにして侵害情報の発信者が特定できれば、やはり内容証明郵便等で、損害賠償の請求や誹謗中傷の書き込みをしないように求めることとなります。相手が応じなければ、裁判ということにもなるでしょう。

刑事告訴

ところで、上記の対応は、民事上のものですが、侵害情報の発信が信用棄損、業務妨害罪(刑法第233条)に該当する可能性もあります。侵害情報が特に悪質であったり、発信が執拗であったりして、業務妨害を意図していることが窺われ、実際に業務に支障が生じているような場合などは、刑事告訴ということも考えられます。

H23.10掲載