中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

従業員との競業避止義務契約を有効活用するために

近年、退職者等の人材を通じた技術情報の流出が社会問題となっており、各企業においても、いかに人材を通じた技術情報の流出を防ぐかが関心事になっています。

人材を通じた技術情報の流出を防止する方法としては、従業員との間で、営業秘密などの業務上知った秘密を第三者に開示しないことを契約する「秘密保持契約」を締結する方法と、退職後に競業他社へ就職しないことを契約する「競業避止義務契約」を締結する方法とが考えられます。

「秘密保持契約」しか締結をしていない場合、退職後の競業他社への就職自体を防ぐことはできませんが、「秘密保持契約」に加えて「競業避止義務契約」も締結した場合には、競業他社への就職すること自体を阻止できるため、技術情報の流出を水際で防ぐことが可能となり、技術情報の流出に対するより強い抑止力となりえます。しかし、「競業避止義務契約」は、直接的な「職業選択の自由」の制限になるため、導入するには躊躇を覚えるかもしれません。

従業員との競業避止義務契約を有効活用するために

経済産業省知的財産政策室が行った「営業秘密の管理実態に関するアンケート」によれば、就業規則とは別に従業員と個別の「秘密保持契約」を締結している企業は、55.5%であるのに対して、「競業避止義務契約」を締結している企業の割合はわずか14.3%にとどまっています。「秘密保持契約」に比べ、「競業避止義務契約」は十分に活用されているとはいえないのが実情です。

「競業避止義務契約」の有効性については、これまで、必ずしも十分な検討がなされていませんでしたが、平成25年8月16日最終改定の経済産業省「営業秘密管理指針」や同指針参考資料6「競業避止義務契約の有効性について」が公表され、詳細な検討結果が明らかにされました。

「競業避止義務契約」は、直接的な「職業選択の自由」の制限になるため、その有効性は、厳格に判断されることになりますが、前記指針等が指摘するポイントを押さえれば、有効性が認められうる「競業避止義務契約」を締結することが可能です。これから、そのポイントについて、見て行きたいと思います。

「競業避止義務契約」の有効性を判断するにあたっては、古い裁判例ではありますが、奈良地方裁判所昭和45年10月23日判決が参考になります。同判決は、競業に対する制約が「合理的範囲」を超える場合には、その制限は公序良俗に反し無効となることを前提として、「合理的範囲を確定するにあたっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、

債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する」と判示しました。同判決は、多面的な観点から合理性や妥当性を検討しており、現在の裁判例でも踏襲されている基本的な考え方といえます。

では、近年の裁判例においては、有効性判断のポイントとして、どのような点が重視されているのでしょうか。

近年の裁判例における有効性判断のポイントとしては、

  1. 守るべき企業の利益が具体的に存在するか、[1]の存在を前提として、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲にとどまっているかという観点から、
  2. 従業員の地位が競業避止義務を課す必要性が認められる立場にあるか、
  3. 地域的な限定があるか、
  4. 競業避止義務の存続期間や、
  5. 禁止される競業行為の制限が必要な範囲内か
  6. 代償措置が講じられているか

という点が重視されていることが指摘されています。

(1) すなわち、「競業避止義務契約」の有効性が認められるには、まず前提として、
  • 企業側に営業秘密等守るべき利益が存在すること
  • 上記利益に関係した業務を行っていた従業員等特定の者が対象となっていること

が必要になります。

(2) そのうえで、有効性が認められる可能性が高くなる規定ポイントとしては、
  • 競業避止義務期間が1年以内になっていること 
  • 禁止行為の範囲につき、業務内容や職種等による限定を行っていること
  • 代償措置(高額な賃金など「みなし代償措置」を含む)が設定されていること

が挙げられます。

(3) 他方、有効性が否定される可能性が高くなるポイントとしては、
  • 業務内容等から競業避止義務が不要である従業員と契約をしていること
  • 職業選択の自由を阻害するような広範な地理的制限をかけていること
  • 競業避止義務期間が2年超となっていること
  • 禁止行為の範囲が一般的・抽象的文言となっていること
  • 代償措置が設定されていないこと

が挙げられます。

これらのポイントに留意すれば、有効性が認められうる「競業避止義務契約」を締結することが可能です。

営業秘密を保護する法律としては、不正競争防止法がありますが、不正競争防止法上の保護を受けるためには、当該情報が、

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)、
  2. 有用であること(有用性)、
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

の3つの要件を全て満たすことが必要であり、保護を受けるのは容易ではありません。企業が秘密としたい情報が常に不正競争防止法上の「営業秘密」としての管理になじむとも限りません。

不正競争防止法に頼ることなく、保護したいと考える技術情報の流出を自ら防ぐためにも、「秘密保持契約」に加え、有効性が認められうる「競業避止義務契約」を締結することが肝要なのです。

最後に、「競業避止義務契約」に違反した場合の措置についてですが、競業行為の差止請求、損害賠償の請求、退職金の支給制限などが考えられます。特に退職金の支給制限については、大変センシティブな問題を含みます。この問題については、経済産業省「人材を通じた技術流出に関する調査研究報告書」(平成25年3月)にて詳細な検討が加えられており、大変参考になりますので、関心のある方は、是非参照してください。

H25.10掲載