中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

「弁護士費用を保険金でまかなう」お話 ~弁護士費用保険~

Q.姉が夫と不和で離婚協議をしてきたがまとまらず、弁護士に依頼して離婚調停を申し立てたい、慰謝料も請求したい、と言っているのですが、弁護士費用を心配しています。弁護士費用はどのくらいでしょうか。

A.弁護士によって異なりますが、調停であれば依頼時に20万円~40万円程度かかることが見込まれます(*)。依頼時に支払われる弁護士費用は着手金と呼ばれ、勝ち負けに関係なく出し切りとなるものです。そして、無事離婚できれば、別途費用が発生します。成功報酬といわれるものです。20万円から50万円が相場で、難易度によって増減するのが一般的です。

「弁護士費用を保険金でまかなう」お話

Q.慰謝料部分の弁護士費用は具体的にどのように算出されますか?

A.ここも弁護士によって異なりますが、300万円を請求するのであればその着手金は8%程度、調停の結果慰謝料が認められれば、その分の16%程度が成功報酬とされるのが一般的です。離婚と慰謝料請求とは別途で見積もられることが多いようです。

Q.かかった弁護士費用を事件の相手方に負担してもらうことは出来ないのですか。

A.現在の実務では、例えば交通事故訴訟や医療訴訟などのような事件に限って弁護士費用の請求は認められていますが、それ以外の事件では通常認められていません。

Q.そうすると、請求する側は弁護士費用の分だけ手取り金額が目減りしてしまいますね。

A.結果的にそうなりますね。私は相談者には、長い人生では様々なことが起こる、人生をノーリスクで生きていくことはできない、弁護士費用は人生におけるコストだ、病気になったとき医療費がかかるのと同じだ、と説明しています。

Q.事故に遭遇したとき、その金銭面のリスクを回避する制度として保険がありますよね。請求金額が大きな金額となると、その分弁護士費用が多額となってしまい、すぐには準備できないこともあろうかと思います。さらに考えてみると、請求する側であれば、勝てば相手方からお金が取れてそれでまかなうことができても、負ける可能性だってあるし、請求をされている事件では相手方から支払いを受けるということはないため、弁護士費用は丸々負担となってしまいます。弁護士費用の負担という事態に保険で対応する仕組みはないのでしょうか。

A.それがあるのです。弁護士費用保険というものです。

Q.それは知りませんでした。姉に弁護士費用保険に入っているか、尋ねてみます。もっとも、姉は自動車を運転し、自動車保険に入っているようですが、自動車保険は自動車事故に対応するものなので、離婚事件では無理でしょうね。

A.いえ、きちんと尋ねて調べてみていただく必要があります。

Q.えっ、利用できる場合もあるのですか。

A.はい。確かに、近時自動車保険に弁護士費用特約を付けている例がとても多くなっているとはいえ、一般の自動車保険の弁護士費用特約では、離婚事件に対応できません。自動車保険では離婚事件は弁護士費用保険の給付対象外です。
しかし、一般の弁護士費用特約ではなく、「日常生活弁護士費用特約」を自動車保険に付けている場合は、離婚事件であっても弁護士費用が出るのです。

Q.早速、姉に確認してみます。
でも、もし、姉が自動車保険に「日常生活弁護士費用特約」を付けていなければ、弁護士費用は自分で負担するしかないのでしょうね。

A.いえいえ、まだ、望みはあります。お姉さんは働いておられましたよね。

Q.はい、東京に本社がある企業の福岡支店に勤務しています。

A.そうだとすると、企業が提携している団体医療保険にお姉さんが入っていれば、その特約で弁護士費用特約が付けられている可能性がありますね。

Q.つまり、自動車保険の一般の弁護士費用特約では離婚調停の弁護士費用は出ないが、団体医療保険の弁護士費用特約では、離婚調停の弁護士費用は出るということですね。

A.そうです。私の手元にある資料では、団体医療保険の特約として弁護士費用特約があり、その給付対象事件として、離婚調停に関する紛争が掲記されています。
離婚に関する弁護士相談料も10万円までであれば弁護士費用が出ます。弁護士相談の前に保険会社の同意が必要のようですので、予め保険会社にお尋ねしておくのが良いと思います。

Q.そのほか、注意すべき点がありますか。

A.限度額があることです。手元の資料では、保険金は300万円が限度額とされています。これを超える弁護士費用は、ご自身が負担しなければなりません。保険の内容や保険会社によって限度額が異なる可能性がありますので、契約されている保険会社にご確認されるとよいでしょう。

Q.弁護士費用が保険で出る場合のあることはわかりました。これは、知った弁護士に頼むときにも使えるのですか。また、弁護士を知らないときはどうなるのですか。

A.知った弁護士に頼むときも、当然利用できます。その場合は、予め弁護士費用保険のあることをその弁護士にお伝えください。知った弁護士がいない場合は、保険会社にご相談ください。保険会社を通じ、日弁連・弁護士会が弁護士をご紹介します 。(**)

Q.自動車保険の弁護士費用保険のことは知っていましたが、自動車事故以外で弁護士費用が出る可能性があるのは驚きでした。

A.自動車保険で弁護士費用が出なくても、例えば、家庭用火災保険で弁護士費用特約を付けている場合があります。また、その場合、本人のみならず配偶者、生計を共にする同居の親族や、別居であっても生計を共にする未婚の子であれば、弁護士費用が出る場合もあります。その意味で契約している保険を全てチェックすることが大切です。

(*)交渉、調停、訴訟でそれぞれ弁護士費用は異なるのが一般です。

(**)日弁連・弁護士会と協定している保険会社に限られます。

R05.04掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。