中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

中国企業とライセンス契約を結ぶ際の落とし穴

はじめに

中国企業と契約を結ぶ際の一般的な注意点として、準拠法を日本法にしておく、仲裁方法を定めておくといった点が挙げられますが、技術に関するライセンス契約を結ぶ際は、さらに注意しなければならない点がいくつかあります。

まず、中国ではライセンス契約に関する登録手続をしなければ中国からの海外送金が出来ずロイアルティを受け取ることができません。

また、『技術輸出入管理条例』(以下「管理条例」と言います)等の中国特有の法制度に抵触するとライセンス契約が無効になってしまうことがありますので、注意が必要です。

そこで、今回は、中国の法制度の中でも特に重要な管理条例についてお話ししたいと思います。

中国企業とライセンス契約を結ぶ際の落とし穴画像

『技術輸出入管理条例』とは?

管理条例は、中国における「技術輸出入」について規制する条例です。

ここにいう「技術輸出入」には、特許譲渡契約、特許ライセンス契約、ノウハウライセンス契約、共同設計契約、共同開発・製造契約等が広く含まれるため、技術移転の多くはこの条例による規制を受けます。

管理条例の怖いところは、その主な規定が強行法規と解されているため、当事者の合意では排除できない点です。この点は、よく誤解されるところなのですが、仮に日本法を準拠法として選んだとしても管理条例の適用を免れることは出来ません。例えば中国企業との間で技術移転の契約を結ぶ際に、日本法を契約の準拠法に選んでも、契約が中国で実施される以上、管理条例のうちの強行法規とされている規定には拘束されるのです。

では、管理条例は具体的にどのような規制をしているのでしょうか。

輸出入の制限

管理条例は、技術内容を[1]輸出入禁止技術、[2]輸出入制限技術、[3]輸出入自由技術の3種類に分類し審査する制度(分類審査制度)を採用しています。

このうち、[1]輸出入禁止技術に分類されれば、そもそも中国に輸入したり、中国から輸出することができません。また、[2]輸出入制限技術に分類された場合、技術の輸出入には関連主管部門の許可を受けなければいけません。一方、[3]輸出入自由技術には「契約登録管理制度」が採用されており、届出制の比較的簡易な手続となっています。

中国は[1][2]に該当する技術の目録を公表していますので、まずは、輸出あるいは輸入しようとする技術が[1][2][3]のどれに該当するのかを確認する必要があります。

技術の保証責任

管理条例は、ライセンサーに(ア)自身が供与技術の合法的所有者であること又は譲渡・許諾できる権利を有する者であることを保証する義務や、(イ)供与技術が完全で瑕疵なく有効で技術目標を達成できることを保証する義務を負わせていますので、保証範囲が不当に拡大しないように、保証範囲を明確化、限定化しておく必要があります。具体的には、設備や技術水準の低さ等の中国企業側の責任を日本企業が負わされないよう、(ア´)設備・材料等の条件を明示し、それを備えた上での保証であることを明確化する、(イ´)達成する技術目標を明確化し、数値化しておく等の対策が考えられます。

第三者からの権利侵害の訴えに対する対応・責任

管理条例は、供与技術の実施に関しライセンシーが第三者から権利侵害を主張された場合、ライセンサーは協力して排除しなければならない上、権利侵害に対する責任を負わなければならないと規定しています。そこで、契約書上、供与技術を供与契約の規定どおり使用した場合に限り責任を負う、裁判の判決が確定する等して侵害が客観的に明らかになった時点で責任を負うといった限定を加える等の対策が必要です。

強行規定に反する条項の禁止

管理条例は、以下のような条項を契約書に定めることを制限しています。

  1. 不必要な技術、設備等の購入
    管理条例は、ライセンサーが優越的地位を濫用して、技術供与に関して、必要不可欠でない附帯条件の受入を要求することや技術、原材料、製品、設備又はサービスの購入を要求することを禁じています。
  2. 特許権の存続期間が満了後又は特許権が無効宣告を受けた場合のライセンス料の支払い
  3. 改良技術に関する権利のライセンサーへの帰属等
    管理条例はライセンシーの改良した技術の成果は、改良した側に帰属すると規定しています。したがって、ライセンシーの改良技術をライセンサーに帰属させたり、無償でライセンサーと共有させることはできません。
  4. 改良技術の使用に対する制限
    ライセンシーが供与を受けた技術を改良することを制限したり、又は改良した技術の実施を制限することは禁じられています。
  5. 譲受人又はライセンシーの類似又は競合技術の取得に対する制限
    ライセンシーによる供与技術に類似した技術又は競合する技術の取得を制限することは禁じられています。
  6. 設備又原材料についての不合理な制限
  7. 生産量、販売価格等についての不合理な制限
  8. 生産した製品の輸出ルートについての不合理な制限

以上のような管理条例の強行法規に抵触する契約条項は無効とされますが、その条項が技術を違法に独占するものである、又は技術の進歩を阻害するものと評価されれば、当該条項だけでなく、契約全体が無効とされる危険性もあります。

最後に

中国企業とのライセンス契約に関しては様々な中国法規上の規制があります。今回お話しした管理条例一つをとってもそのリスクの大きさはご理解いただけたかと思います。

一方で、中国企業とのライセンス契約は会社に大きな利益をもたらす可能性を秘めていることも事実です。

是非とも中国におけるライセンス契約特有の規制を理解し、その対策を講じた上で実りあるライセンス契約を結んでいただきたいと思います。

H29.5掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。