中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

企業不祥事の防止策 ~トップの意識改革が全ての出発点~

企業不祥事の多さ

昨今企業の不祥事が報道されることが多くなっております。しかも、名だたる企業が会計不正、法令に基づかない製造、無資格者検査、データ改ざんといった不正が行われていたというのは非常にショッキングなことと受け止められています。

さて、このような企業不祥事は、対岸の火事であり、わが社には関係のないものとしてしまっていいものでしょうか?果たして、「わが社には不正はない」と言い切ることが本当にできるでしょうか?

誤解を恐れずにいえば、多くの社員によって業務が遂行されている企業では、「不祥事は必ず起きる」といってもいいと思います。

いうまでもなく、会社は利益を上げることを目的とするものですが、その利益とは刹那的なものではなく、持続的なものでなくてはなりません。持続的な利益を上げるための存在となるには、株主、取引先、顧客等の社会的信用の構築が必要不可欠で、会社はそのために長い時間と労力と経費を掛けることになります。CSRなどもまさにその一環といっていいでしょう。この多大なパワーをかけて構築した社会的信用を、一気に破壊するのが不祥事なのです。

経営者は企業不祥事に無関心でいるわけにはいきません。

企業不祥事の防止策

不正はなぜ起きるのか~不正のトライアングル~

不正の防止を考えるうえでは、不正がなぜ起きるのかという原因からアプローチすることが有益です。

再発防止であれば当該不正の原因を分析することが必要ですが、予防という観点でも、最近の大規模な企業不祥事の案件では、第三者委員会の調査が行われることが多くなり、その調査結果が公表されますので、その原因などを知ることができ参考になります。

不正の原因は細かく分析すると多種多様ということにはなりますが、対策に結びつけるにはある程度類型化するといいと思います。とりわけ他社の事例を参考とする場合は類型化作業が有益といえるでしょう。

ここで役立つのが「不正のトライアングル」という考え方です。アメリカの組織犯罪研究者が提唱した理論ですが、①不正を行う「動機」、②不正が行える「機会」、③不正を肯定しようとする「正当化」の3つが揃うと、普通の者も不正を行ってしまうというもので、企業不祥事の分析ではしばしば引用されるものです。

第1に「動機」ですが、不祥事ではノルマのプレッシャー、経費削減のプレッシャー、納期のプレッシャーなどがよく指摘されます。企業風土として、極端な売上至上主義、利益至上主義があると従業員はそのプレッシャーを受け、架空売り上げ、必要な検査の不実施、データ偽装への動機が生じることがあります。

第2に「機会」ですが、要するに不正を行おうと思えばできてしまうという環境のことです。特定の者へ権限が集中してチェックができていない、周りが不正を発見しても報告しない風土がある、監査が表面的なものに留まり監査される側がそのことを認識しているなどが指摘されることが多いです。

第3に「正当化」ですが、これは不正をあえて是認しようとする主観的事情ですが、「結局は会社の利益のためになるのだから悪いことではない」、「顧客が要求するから仕方ない」、「顧客から苦情は出ていない」、「最低限の安全性は確保できている」といった心理が該当します。

不正の原因に対応した防止策

極端な売上至上主義、利益至上主義が不正の「動機」に結びついていると考えると、経営陣がそれを改めるほかありません。前述のとおり、会社である以上は利益を求めるのはあたり前ではありますが、それは持続的で、発展可能な利益でなければ意味がなく、ひとたび不正が行われると社会的信用は破壊され、もはや持続的で発展的な利益確保は困難となることもあることを強く意識する必要があります。また、慢性的人手不足のために納期までに必要な検査を実施できないということもあるでしょうから、人員配置を含めた組織体制を整えることも必要となることもあるでしょう。

不正の「機会」を生じさせないためには、権限者によるチェック機能が有効に働くようなシステムにしたり(職務の垂直分離)、また権限が特定者に集中することがないように人事ローテーションをする(職務の水平分離)といった組織体制を整えることも必要ですし、誤ったことがあればそれを気兼ねなく指摘できる環境、いわば風通しのいい職場環境を構築することも必要となるでしょう。

最後に「正当化」への対策ですが、これは従業員の主観的事情なので、コンプライアンスを徹底させるための教育、マニュアル等の作成ということになるかと思います。

経営トップの意識改革が全ての出発点

「極端な売上至上主義、利益至上主義を改める」、「適正な人員配置をする」、「職務分離等の組織体制を整える」、「風通しのよい職場とする」、「コンプライアンス教育を徹底する」というのは、実は経営トップにしか実現できないことをトップは知るべきです。コンプライアンス統括部門に対応を任せるといったことでは到底実現できるものではありません。立派なマニュアルや規程はあるが、実態は全く伴わないということになりかねません。

繰り返しになりますが、企業不祥事はそれまで築き上げてきた会社の社会的信用を一気に崩すものであり、会社にとって致命的なダメージを与えるものとなります。これまでの成功が消えてしまうのです。経営トップは重大な危機感を持たなくてはなりません。

まず、経営トップは、コンプライアンスを何よりも徹底的に重視すること、たとえ利益に結びついても、顧客が苦情を述べなくても、不正行為は絶対に許されないことを明確に社内に打ち出し、コンプライアンス文化を浸透させることを宣言すべきです。書面(メール)で宣言することは強い意向が伝わり効果的ですし、トップが現場に赴き従業員にその思いを直接告げることも有効でしょう。

そのうえで、トップ自らが強烈なリーダーシップをもって、各部門の事情を調整し、会社の隅々までコンプライアンス文化を定着させる具体策を構築し、実行していくべきでしょう。

H30.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。