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違約金の減額可能性 ~定期建物賃貸借の解除に伴う違約金が3分の1に減額された事例~

違約金とは

契約書には、契約違反があったときは違約金を支払わなければならないという約定が定められていることがあります。通常は違約金など支払いたくありませんから、契約違反をしないようにするでしょう。つまり、違約金は契約の履行を確保するためのものということができます。

その法的な意味は、私的制裁としての違約罰ということもあるでしょうが、多くの場合は契約不履行による損害を填補する目的で違約金の定めがされていることと思います。違約金については、民法第420条3項に規定があるのですが、「違約金は、賠償額の予定と推定する」としております。

賠償額の予定とは何でしょうか。

契約不履行により相手方に損害が発生したときは、その相手方は損害賠償請求をすることができます。もっとも、その請求をするには、損害が発生したことに加え、その金額も証明しなくてはなりません。この証明をすることが実務的になかなか難しいということはよくあることです。その証明ができているかどうかを巡って紛争となることも少なくありません。そこで、契約で賠償額を予定しておいて、契約不履行があったときは、損害の発生や損害額についての証明をせずに支払いを求められるようにするというのが違約金なのです。

違約金の減額可能性 ~定期建物賃貸借の解除に伴う違約金が3分の1に減額された事例~

不動産の賃貸借契約などでも、期間満了前に解除となったときは違約金が定められている例も多くあると思います。

違約金は減額できない?

前述したように、違約金は損害の有無や損害額の証明なくして請求できるものですから、契約不履行となってしまった者は、「違約金ほどは実損はなかったのではないか」ともいえず、定められた違約金を支払わざるを得ないこととなります。

もちろん公序良俗に反するような高額の違約金ということであれば、違約金の定め自体が無効であるという主張も可能ですが、そうではない場合は違約金が高すぎると思っても、金額を争う(減額を求める)ということはできないというのが原則となってしまうのです。

しかし、どんな事情があっても、減額はありえないのでしょうか?

事例

具体的な事案で見てみましょう(高松高裁令和3年3月17日判決の事例を簡略化しています)。

家庭用調理器具の販売をするAは、B所有の商業ビルのフロアのテナントになるように勧誘されました。Bの説明では、その商業ビルの地下1階には、大型の食品スーパーが入る予定であるということでした。そこで、Aは地下1階に食品スーパーが入るのであれば、この商業ビルには主婦層の顧客も多く来訪し、家庭用調理器具の販売をする場所として適していると考え、3階フロアを借りることを決意し、Bとの間で期間5年間の定期建物賃貸借契約を締結しました。この契約には、Aが承諾なく店舗を閉鎖したときはBは解除でき、その場合Aは残存期間の賃料相当額を違約金として支払う旨の条項がありました。

Aは予定通りに家庭用調理器具をオープンしましたが、地下1階の食品スーパーは出店しませんでした。そのため、Aの売上は想定した3分の1以下で推移することとなり、約1年で店舗を閉鎖することとなってしまいました。

すると、Bは、承諾なく店舗を閉鎖したとして、賃貸借契約を解除し、Aに対し残存期間4年分の賃料に相当する違約金の請求をしました。

争点

前述のとおり、違約金は賠償額の予定ですから、金額を争うことができないのが原則です。

しかし、Aとしては、地下1階に食品スーパーが入るということを信じて出店を決意したのに、その食品スーパーが出店せず、その結果予定していた収益を上げられずに閉店を余儀なくされているのですから、契約通りとはいえ、違約金を支払うのは納得できません。

果たして、裁判所はどのような判断を下したのでしょうか。

賃貸人の情報提供について

裁判所は、契約段階のBの情報提供について、次のように判断しました(ここでは事案を簡略化していますが、実際の裁判例では、Aに説明をしていたのは、Bがリーシング業務を委託していたCであり、Bの履行補助者としてのCについて判断しています)。

「Bとしては、Aの店舗形態からして、Aが本件店舗の主要顧客として主婦層を想定しており、本件ビル地下1階に食品スーパーが出店するか否かに重大な関心を持っていたことを認識していたのであるから、本件契約勧誘に際し、信義則上、Aが本件契約締結の判断を左右する集客力に関する事情について、Aに誤解を与えないように正確な情報を提供する義務(説明義務)を負担していたというべきである。」

「それにもかかわらず、Bは、食品スーパーとの交渉状況等については、詳細な情報、すなわち、本件ビルのオープン時に食品スーパーが出店しない可能性なども一切説明しなかったものであるから、Bは、上記義務に違反してAに対し、集客力に関する事情について正確な情報を提供しなかったものである。」

つまり、裁判所は違約金を請求する側であるBにも、情報提供義務違反があるとしているのです。

違約金の金額

そして、違約金について以下のように判断しました。

「Bの上記義務違反のため、Aは短期間で本件店舗の閉店を余儀なくされたのであるから、Aが本件契約全期間について、違約金の請求をするのは信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。」

「しかしながら、他方で、Aも、最終的には自己判断で、中途解約禁止条項や違約金条項を知りながら、その条項を含む本件契約を締結して出店したことからすると、違約金の請求が一切許されないとまではいえない。」

「本件契約に基づいて算定した違約金額の3分の1の範囲に制限されるものとするのが相当である。」

信義則違反や権利の濫用の主張は、認められやすいというわけではなく、ハードルは当然あります。裁判をせずに、相手方がこれを認めるということはかなり難しいということもあります。

しかし、上記事案のように、金額の多寡を争えないとされている違約金でも事情によっては減額されることもありうるということは、覚えておいてもいいでしょう。

R05.05掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。