中小企業の法律相談

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改正育児・介護休業法。『仕事と子育ての両立』は会社の課題です!

はじめに

「仕事と子育ての両立」。ひと昔前は、こう聞くと「うちは大丈夫かなあ」と胸に手を当てられる方が多かったかもしれません。

「しかし、今はそういう時代ではありません。育児・介護休業法の制定・改正により、社員ではなく事業主が「うちの会社は大丈夫かなあ」と社内制度をチェックしなければならない時代になっているのです。

「というわけで、今回は、平成29年10月に施行された改正育児・介護休業法の育児関連の改正のポイントについてお話ししたいと思います。

育児イメージ画像

その前に・・・平成29年1月の改正をざっとおさらい

「育児・介護休業法」は今年の1月にも改正されています。育児関連の改正の主なものをおさらいすると以下のとおりです。

  1. 有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和
    改正前は、有期契約労働者の場合、(1)申出時点で過去1年以上継続して雇用されていること、(2)子どもが1歳になった後も雇用継続の見込みがあること、(3)子どもが2歳になるまでの間に雇用契約が更新されないことが明らかでないことが育児休業取得の要件でしたが、1月の改正後は、(1)申出時点で過去1年以上継続して雇用されていること、(2)子が1歳6か月になるまでの間に雇用契約がなくなることが明らかでないこと、という要件さえ満たせば、育児休業が取得できるようになりました。
    これにより、有期契約労働者でも、育児休業が取得しやすくなりました。
  2. 子の看護休暇の取得単位の柔軟化
    改正前は、1日単位での取得のみ認められていましたが、1月の改正により半日(所定労働時間の2分の1)単位で子の看護休暇が取得できるようになりました。
  3. 育児休業等の対象となる子の範囲の拡大
    改正前は、育児休業や子の看護休暇の対象は、法律上の親子関係がある実子・養子のみでしたが、改正後は、特別養子縁組の監護期間中の子や養子縁組里親に委託されている子等も新たに対象に含まることになりました。
  4. マタハラ、パタハラ等の防止措置の新設
    もともと事業主が妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由に不利益な取り扱いをすることは禁じられていましたが、1月改正では、事業主に対して、上司や同僚からの妊娠・出産、育児休業、介護休業等を理由とする嫌がらせ等を防止する措置を講じることが義務付けられました。

平成29年10月改正のポイント

  1. 育児休業が最大2年まで延長できるようになりました
     改正前は、育児休業期間は原則1年とされ、保育所に空きがなく子どもの預け先が見つからない等の事情がある場合に限り最長で子どもが1歳6か月に達するまで延長できることになっていました。
      しかし、保育所への入所は年度初めが一般的であるため、実際上、子どもが1歳6か月に達した日から年度末までの間、保育所に子どもを預けられず、育休も取得出来ないということになってしまうという事態が生じていました。
      そこで、今回の改正では、子どもが1歳6か月に達した時点でも保育所に入れない等の事情がある場合、再度の申出により、育児休業期間を「最長2歳まで」延長できることになりました。
     この点、社員のキャリア形成という観点から見れば、休業が長期間に及ぶことが社員本人にとって望ましくない場合もあるため、労使間で職場復帰のタイミングを話し合うこと等が想定されます。
     その場合、事業主が社員の事情やキャリアを考慮して早期の職場復帰を促すこと自体は、育児休業等に関するハラスメントに該当しないと考えられていますが、職場復帰のタイミングはあくまでも社員の選択に委ねられることが必要ですので、ご注意下さい。
  2. 事業主には育児休業等について社員に知らせることが求められます
     育児休業を取得できるかどうかは、職場の雰囲気が育児休業を取得しやすい雰囲気がどうかにも影響されます。
     そこで、今回の改正では、事業主に対して、社員やその配偶者の妊娠・出産等を知った場合に、当該社員に対して個別に育児休業等に関する制度(育児休業中・ 休業後の待遇や労働条件など)を知らせる義務が課されることになりました。
     この義務は、あくまでも努力義務とされていますが、コンプライアンス上、事業主は、これまで以上に積極的に育児休業中・ 休業後の待遇や労働条件などについて検討し、対象者に育児休業取得の周知・勧奨するための規定を整備することが求められます。
  3. 事業主には育児に関する目的で利用できる休暇制度を設けることが求められます
     また、今回の改正で、事業主には、小学校就学に達するまでの子を養育する社員が、育児に関する目的で利用できる休暇制度の措置を設けるよう努めることが義務付けられました。
     具体的には、配偶者が出産する際の休暇、卒園式、運動会等の子どもの行事に参加するための休暇等がこれにあたります(※子どもの看護休暇、介護休暇、年次有給休暇は含みませんが、出産後の養育について出産前に準備するための休暇を含みます。)。
     この改正は、特に男性の育児参加を促進することにその狙いがあります。
  4. 最後に
     法令上、事業主が「仕事と育児の両立」に積極的に取り組むことが求められていることはお分かりいただけたでしょうか。
     事業主には、今年1月の改正や今回の改正を踏まえたうえで、社内制度を見直し、適宜、就業規則等を整備することが求められます。
     子育てに余裕をもって取り組むことができれば、ストレスや疲労感が緩和され、仕事への意欲が増すという好循環も期待できます。
    事業主の皆さんは、今回の改正を契機に、社員に対し、積極的に育児休業や休暇制度を活用するように促し、職場環境の改善や社員のモチベーションアップに努めましょう。

H29.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。