中小企業の法律相談

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相手方の資産を差し押さえたい
強化された判決・公正証書の民事執行の効力~改正民事執行法を活用しよう

Q.取引先から売掛金500万円の支払いがなく、公正証書にして支払いを確約させました。しかし、延期した支払日に支払いがありません。どうしたらいいでしょうか。

A.強制執行することになるでしょうね。

強化された判決・公正証書の民事執行の効力
Q.強制執行とは、平たく言えば裁判所に相手方の財産を差し押さえてもらう手続きでしょう。そのためには相手方の財産を知らないと手続きが取れない、と聞きました。

A.そうです。強制執行を求める申立書を裁判所に提出するにあたり、差押えの対象とする相手方所有の財産を記載する必要があります。(※注1)

Q.でも、相手方の財産なんて普通は知り得ないですよね。

A.確かにそうですね。一般には、不動産を差し押さえることができないか、その調査のため、相手方が法人なら法人の主たる事務所の所在地の、個人ならその住居地の不動産の全部事項証明書を法務局から取り寄せて、不動産名義を調べる、ということは行われているところですが、不動産が相手方名義ではなかった、ということも大いにあるわけです。

Q.そうした場合、何か相手方の財産を知る手立てがないのですか。泣き寝入りですか

A.いえいえ、調べる方法はあります。具体的には、①債務者が預貯金債権等(以下「預貯金」)を持っていないか、関係機関に問合せをして開示してもらう手続き、②債務者自身に所有財産の明細を開示してもらう手続き、③債務者がほかの場所に不動産をもっていないか、関係機関に問合せをして開示してもらう手続き、(※注2)です 。通常はこの順番で手続きを取っていきます。

Q.では順番にお聞きするとして、まずは①ですが、相手方の預貯金の内容を知る手続きがあるなんてびっくりです。

A.はい、国内の金融機関の全ての本支店における債務者の預貯金の明細を、一定の手続を取ることにより知ることができます。債務者の預貯金の存否、そして預貯金が存在するときは、当該金融機関から種別、口座番号及び額といった情報が提供されます。金融機関は守秘義務を理由に回答を拒否するということはできません。
取得できる情報はこれらだけではなく、さらに上場株式、投資信託受益権、社債、国債についての情報についても取得可能となりました。振替機関(証券保管振替機関、日本銀行)や口座管理機関(証券会社等の金融商品取引業者、銀行等)から、振替社債等の存否、これらが存在するときはその銘柄及び額(又は数)を提供させることもできます。もっとも、裁判所への申立にあたっては具体的な証券会社名等を記載する必要がありますので、可能性のある金融機関に絞ることになると思われます。

Q.今までは、こんな手続きはありませんでしたよね。

A.そうです。権利者が泣き寝入りしないよう、令和元年改正の民事執行法で新たに創設され、同2年4月1日から施行されています。

Q.この手続きを利用できるのは、どんな場合ですか。

A.まず資格についていえば、確定した判決を取得した方はもちろん、例えば、控訴中で確定していなくても仮執行宣言付きの判決(※注3)をもっている方、またあなたのように、公正証書のある方(※注4)が代表例です。

Q.その他、どのような要件が必要ですか。

A.知っている相手方の財産について強制執行をしたが空振りだった等の事情が必要です。難しい用語名ですが、強制執行不奏功要件と言われるものです。あなたの場合、相手方住所地の不動産名義を調べてみた結果、相手方名義ではなかった、ということであれば、そもそも強制執行手続をとろうにもとりえないわけですので、この不奏功要件を充たしていることとなります。

Q.裁判所に申し立てるのですか。

A.はい、所轄の裁判所に「第三者からの情報取得手続申立書」という書面を提出することになります。裁判所は、要件の具備が認められれば当該金融機関に情報の提供を命じる決定を出し、当該金融機関等は、命ぜられた情報を裁判所に提供することとなります。
こうして、申立債権者は、情報を収集し差押えの対象財産を探し出して、強制執行の申立をすることが可能となります。専門的となりますので、弁護士等の専門家にご相談するのがよいと思います。

Q.次に、②の財産開示手続きとは何ですか。

A.相手方に裁判所に財産目録を作成のうえ出頭させてその財産の内容を陳述させる手続です。これは平成15年の民事執行法の改正で導入されたのですが、今回、出頭しなかったり、虚偽の陳述をするなどした場合は、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するものとし、罰則が強化されました。

Q.③の不動産についての情報取得制度とは何ですか。

A.裁判所が、登記所に対して、相手方名義の不動産の存否並びに存在する場合はその所在等の情報の提供を命じる制度です。申立権者や要件は、①に準じます。ただ、注意すべき点は、①と異なり②の財産開示手続きを前もってしておく必要があるという点です。この手続きにより、本店所在地や住居地以外の債務者名義の不動産を突き止めることができます。

※注1 動産を差し押さえる場合は、個別の特定は不要です。ただ、動産の所在場所の特定は必要です。
※注2 養育費や生命身体についての損害賠償請求についての債権者は、さらに相手方の勤務先を調べることも出来るようになり、給料の差押えが出来易くなりました。
※注3 支払命令でも可能です。
※注4 正確には、強制執行認諾文言付きのものに限られますが、多くの場合は、この文言は付されています。

R03.06掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。