中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

御社のパワハラ対策、進んでますか?

はじめに

最近、組織におけるパワハラがテレビやインターネット等で連日報じられ、大きなスキャンダルとなっています。一時的な醜聞に止まらず、連日取り上げられた末、責任者が辞任に追い込まれるという事態は、ハラスメントに対する社会の意識の高まりを象徴しているように思われます。

一方で、『パワハラ』については、「怒鳴る」とか「無理な業務を押し付ける」といったイメージが先行しており、本来の定義以上に狭く受け止められていることも事実です。

そこで、今回は、そもそもどのような行為がパワハラに当たるのかをご説明した上で、パワハラ事象が発生した場合の会社の法的リスク、さらには、そうした法的リスクを回避するために会社としてどのような対応をすべきか、といった点についてお話ししたいと思います。

御社のパワハラ対策、進んでますか?

そもそもパワハラとは

平成24年3月に厚労省のワーキンググループがまとめた提言によれば、パワーハラスメントは、『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』と定義付けられます。

典型的な職場のパワーハラスメントは以下の6類型に整理されます。

  1. 身体的な攻撃・・・暴行・傷害
  2. 精神的な攻撃・・・脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(例えば、「やめてしまえ」といった社員の地位を脅かす言葉や、「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」「アホ」といったひどい暴言は、原則として業務の適正な範囲を超えてパワハラに当たると考えられています。)。
  3. 人間関係からの切り離し・・・隔離・仲間外し・無視(例えば、職場の忘年会にわざと呼ばない、話しかけても無視する等の行為が、職場の上司や先輩など、職場内での優位な立場を使って行われるとパワハラに該当するとされています。)。
  4. 過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
  5. 過小な要求・・・業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
  6. 個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入ること(例えば、管理職が管理職としての優位性を利用して、私生活や休日の予定を聞いたり、携帯電話等の私物を覗き見たりすること等はパワハラに該当します。)。

会社の責任

では、職場内でパワーハラスメント事象が起こった場合、会社はどのような法的責任を負うのでしょうか。

まず、加害者である社員が民法上の不法行為責任(民法709条以下)を負う場合、会社は加害者の使用者として損害賠償義務(使用者責任、民法715条)を負うことになります。

また、会社には、被害者の使用者として、良好な職場環境を整備し配慮する義務等を負っていますから、かかる義務を怠ったことを理由とする債務不履行責任(民法415条等)や不法行為責任(民法709条等)を負うこともあります。

このうち、債務不履行責任に関しては、場合によっては、被害者である社員から職場環境を整備するよう請求されたり、職場環境が整うまで就労を拒否された上、当該期間中の賃金を請求されることもあり得ます。

会社はどのような対応をすべきか

このような法的リスクを回避するために会社はどのような対策を立てればいいのでしょうか。

ここでは、パワハラを未然に防ぐための(=職場環境整備義務や配慮義務を果たすための)具体的な取組みについて、厚労省作成の「あかるい職場応援団」のウェブサイト(https://no-pawahara.mhlw.go.jp/)を参考にしながら整理してみたいと思います。

  1. トップのメッセージ
    企業のトップが自ら、パワハラ防止は全従業員が取り組むべき重要な会社の課題であることを明確に発信することが重要です。
  2. 社内アンケート等による実態の把握
    職場の実態を把握するためのアンケート調査を早い段階で実施すべきです(正確な実態把握や回収率向上のためには、匿名での実施が効果的とされています)。
  3. ルールの策定
    就業規則等で、パワハラ行為を行った者に対しては懲戒規程等に基づき厳正に対処する旨を定めます(パワハラ防止についてより詳細な規定を定めたい場合はパワーハラスメント防止規程を定めることも有効と言われています)
  4. 相談窓口の設置
    相談しやすい窓口にするために、担当者を明示し、面談に限らず、電話や手紙・電子メール等でも相談可能な体制とすることが望ましいです。
    また、相談者の秘密は守られること、不利益な取扱いを受けないこと、相談窓口でどのような対応をするかを予め明確にしておくべきです。
  5. 教育をする
    最も一般的で効果が大きいと考えられる方法が、研修です。研修は、可能な限り全社員に受講させ、定期的に、繰り返し実施するとより効果的と言われています。
    また、研修においては、前述の社内ルールや相談窓口その他の取組についても周知することが必要です。

上記(1)~(5)の対策のうち、御社が実際に取り組まれているものはいくつありましたか?これらはあくまでも一つの例ですので、これらを参考に、会社の実情にそった、効果の期待できる対策を考えることが肝要かと思います。

最後に

パワハラがもたらす災いは、被害者個人の人権侵害に止まりません。

また、ひと昔前に言われていたように、社員の士気を下げるだけでもありません。

インターネットやSNSの普及した今日においては、ハラスメント事象の発生は瞬く間に会社の評判を下げ、事業体全体の士気に悪影響をもたらすリスクを抱えているのです。

パワハラ対策を怠れば、社員だけでなく、世間からの信頼も失ってしまう・・・まずはそのことを肝に銘じる必要があります。

H30.09掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。