中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

中小企業における新会社法活用方法(株式)

1 株式の多様化

株主平等の原則の明文化

旧法下においても、解釈上、株主平等原則は認められていましたが、新会社法では、同一種類の株式は平等に取り扱われるという観点で、株主平等原則が明文化されました(法109条1項)。

これには大幅な例外が認められており、非公開会社においては、定款で、配当・残余財産分配・議決権につき、株主ごとに異なる取扱いを定めることも可能となりました(法109条2項)。これにより、例えば、持ち株数に関係なく、配当や議決権を株主数で頭割りすることも可能となりました。

中小企業における新会社法活用方法(株式)
譲渡制限株式の拡大

譲渡制限株式とは、定款で、株式を譲渡するには会社の承認を要すると定められた株式をいいます。

旧法下では、一部の種類株式だけに譲渡制限を付すことができるか不明確でしたが、新会社法では、一部の種類株式についてのみ譲渡制限を付せることが明記されました(法108条1項4号)。これにより、例えば、普通株式には譲渡制限を付したまま、新たに譲渡制限のない議決権制限株式を発行することで、経営権に影響を与えずに資金調達することなどが可能になりました。

また、旧法下では、相続・合併などの一般承継の場合には、定款による譲渡制限の効力は及びませんでした。しかし、一般承継の場合であっても、会社にとって好ましくない者への承継の場合もあることから、新会社法では、定款で規定した場合には、一般承継により株式を取得した者に対しても、株式を会社に売り渡すよう請求できる制度(一般承継の場合の売渡請求制度)が新設されました(法174条)。

取得請求権付株式の新設

取得請求権付株式とは、株主が会社に対して自己の有する株式を取得するよう請求できる株式をいいます(法108条1項5号)。

発行する株式を全て取得請求権付株式にすることも可能です。

全部取得条項付種類株式の新設

全部取得条項付種類株式とは、会社が株主総会の特別決議によってその全部を取得することができる旨の定款の定めがある株式をいいます(法108条1項7号)。

全部取得条項付種類株式を活用することで、法的倒産手続によらない私的整理手続において、多数決で100%減資を行うことなどが可能になりました。

その他

その他にも、議決権制限種類株式、配当・残余財産分配についての種類株式、拒否権付株式、取締役・監査役の選解任についての種類株式等が新設されました。

2 株式・株券の発行

株券不発行の原則

旧法においては、定款で株券不発行を定めない限り、株券を発行するのが原則とされましたが、現実には株券を発行していない会社が多かったことから、新会社法では、株券を発行しないのが原則とされました(法214条)。

なお、平成16年に「社債等の振替に関する法律」が改正され、平成21年6月までに新しい株式振替制度が導入されることとなっています。これにより、ほぼ全部の上場会社の株式は、一斉に電子化(ペーパーレス化)されることとなります。もし、名義書換未了のタンス株をお持ちの場合には、手続きを怠ると株主の権利を失う場合もあることから注意が必要です。

募集株式の発行としての整理

新会社法においては、旧法の新株発行と自己株式の処分手続とが統合され、募集株式の発行として整理されました(法199条1項)。

また、従来の新株引受権が廃止されて新株予約権に吸収され、端株制度も廃止され単元株制度に一本化されました。

その他、株式の無償割当が新設されました(法185条)。これは無償で行う株主割当で、株式分割と似た制度です。ただし、株式分割は自己株式についても効力が生じますが、株主無償割当では自己株式については割当ができないなどの差異があります。

他にも指摘すべきは、現物出資規制の緩和です(法207条9項)。これにより、DES(金銭債権を現物出資する方法による負債の資本への振替)が容易になりました。

3 自己株式の取得

旧法では、自己株式の買受け・消却・転換が個別に規制されていましたが、新会社法では、これらが自己株式の取得として整理されました。

ミニ公開買付制度の新設

旧法下では、多数の者から自己株式を有償取得するには、市場取引か公開買付によるしかなかったため、非上場会社はこれらの方法により自己株式を取得することができませんでした。

しかし、新会社法では、会社が全ての株主に通知・公告をして譲渡の申込を受け付けるミニ公開買付制度が新設されました(法157条)。

特定の者からの相対での取得の制限緩和

旧法下では、会社が自己株式を特定の者から取得する場合、定時株主総会の特別決議が必要でした。

しかし、新会社法では、臨時株主総会による取得が認められたため、機動的な自己株式の取得が可能になりました(法156条)。

また、この場合、他の株主は、自分も売主に加えるよう請求できますが、定款によってこの売主追加請求権排除することが可能になりました(法164条)。

4 新株予約権・新株予約権付社債

新会社法では、新株予約権発行手続は、募集株式の発行とパラレルに規定されています。

例えば、新株予約権の無償割当(法277条)や、取得条項付新株予約権(法236条)の新設などです。

また、新会社法では、新株予約権行使の際に、現物出資による払込みが可能であることも明記されました(法284条)。

5 まとめ

以上の株式制度を駆使すれば、多様な株式を柔軟に発行し、株主ごとに異なる権利を与えることも可能となるのみならず、迅速な資金調達や資本増減を図ることも可能になります。是非積極的に活用してみてください。

H19.07掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。