中小企業の法律相談

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テレワークにおける労務管理の留意点

はじめに

新型コロナウイルスの影響で一気に普及し始めたテレワーク。一般にはパソコン等のITを活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を指しますが、当然ながら自宅でのテレワークにも労働基準法等の法令が適用されます。

そこで今回は、厚生労働省が示している「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」をもとに、テレワークを導入する際の留意点について解説したいと思います。

テレワークにおける労務管理の留意点

就業規則の確認

まず、自宅でのテレワークを導入するためには、テレワーク勤務に関する規定が就業規則に定められているかどうかを確認する必要があります。例えば、人事異動として在宅勤務を命じることができる旨の規程等、テレワークの根拠になる規定が無ければ、就業規則の変更が必要になりますし、始業・終業時刻等を含め労働条件の変更を伴う場合には就業規則の変更が必要になります。

就業規則の変更を含め労働契約を変更する場合は、その旨社員に(できる限り書面で)伝える必要があります(労働契約法第4条2項)。

テレワークにおける労務管理

(1)今までの労務管理制度を無理に変える必要はない

テレワークを導入する際に労務管理の方法自体を変える必要があると誤解される方もいらっしゃるようですが、テレワークの導入に際して労務管理方法を変更する必要はありません。例えば、これまで通常の1日8時間、週40時間制の一般的な労務管理方法を採用されていたのであればそのまま維持していただいて問題ありません。

(2)事業場外みなし労働時間制の採用は??

一方で、テレワーク導入を期に新たな労務管理制度の採用を検討されている企業もあろうかと思います。この点で特に注目されているのは、事業場外みなし労働時間制等ではないかと思われます。 事業場外みなし労働時間制とは、労働者が業務の全部又は一部を事業場外で行うために、会社の指揮監督が及ばず労働時間の把握が困難な場合に、当該事業場外労働については予め決めた労働時間労働したものとみなすことのできる制度です。

事業場の外で働くという点や、労働時間の把握が困難という点がテレワークと親和性があるので、自宅でのテレワーク導入と連動して、事業場外みなし労働時間制の採用を検討している会社も多いようです。

ただし、テレワーク時に事業場外みなし労働時間制を適用するためには以下の要件を満たさなければなりません。

  1. ①業務が自宅で行われること
    この要件はテレワークのうち、在宅勤務であれば満たします。
  2. ②パソコンが使用者の指示で常時通信可能な状態となっていないこと
     ちょっと分かりづらいですが、労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断することを使用者から認められていることが必要であるということです。  例えば、社員がいつでもパソコンをオフラインにすることができて、上司からの電話にも出なくてよい、という状況にあれば②の要件が認められるのですが、なかなかそれを許容している会社は少ないのではないかと思われます。
  3. ③作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
     業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、当該基本的事項の変更を指示することはよいのですが、具体的な業務を上司が指示すると③の要件を満たさないことになってしまいます。

以上のとおり、いつでもオフラインにすることができ、具体的な指示を受けずに自分の裁量で業務を進めることができるような状態であれば、事業場外みなし労働時間制の適用を受けるということになりますが、実際には②③の要件を満たしているケースは少ないのではないかと思われます。

テレワークと同時に事業場外みなし労働時間制を導入したところ、実際には要件を満たしていなかったという場合、会社は、未払賃金の支払いを求められる等、相応のダメージを被るリスクがありますので、安易な事業場外みなし労働時間制はお薦めできません。

まずは、『それまでの労務管理制度を維持した上で時間管理を図っていく』という視点に立つことが会社のリスクを回避すると同時に社員の混乱を招かない最良の方法ではないかと思います。

(3)テレワークにおける時間管理の方法

労働時間の把握については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で具体的な方法が示されていますが、テレワークにおいても、同ガイドラインに基づき、適切に労働時間管理をしなければいけません。

したがって、テレワークにおいても、労働時間をタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認するのが原則ですが、実際には自己申告制を採用せざるを得ないケースが多いと思われます。

そのような場合、社員に対し自己申告制のあり方を具体的に説明し指示する必要があります。例えば、①始業時には「業務を始めます」という報告を、②休憩時には「休憩に入ります」という報告を、③終業時にも「業務を終了します」という報告を、それぞれメールやチャットツール等の方法で行う、といった方法が考えられます。

また、クラウド勤怠管理ソフトを導入して客観的に労働時間を把握する方法もあります。  特に最近は社員が勤怠打刻を簡単に行える便利なサービスが続々と生まれていますので、テレワーク導入を機に、自社の勤怠管理の方法自体を見直されてもいいかもしれません。

最後に

新型コロナ禍で急遽テレワークを導入することになったという企業も多いのではないでしょうか。

そういう意味では戸惑うことも多いかと思いますが、急な導入で戸惑っているのは社員の皆さんも同じです。

『自宅でのテレワークにも労働基準法や労働契約法等の労働法制が適用される』。まずはそのことを念頭に、適切かつスムーズな導入を心がけていただきたいと思います。

R3.10掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。