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所有者不明土地問題にからむ相続と不動産登記手続きのお話
所有者不明土地問題はすでに2023年6月掲載記事に取り上げられていますが、今回は具体的ケースでお話しましょう。
ケース
父(A)とは、母(B)、長女の私(C)の3人家族で父名義の居宅に同居していましたが、今年5月に父が亡くなりました。父は再婚で、既に他界している先妻との間に長男(D)が1人います。しかし、Dとの行き来はなく、どこに住んでいるかも知りません。令和3年の改正法で相続登記は義務化され、これを怠ると10万円以下の過料という罰則に処せられると聞いています。どうすればいいでしょうか。
1 相続登記の申請の義務化
A.相続によって不動産を取得した相続人は、3年以内に相続登記をすることが義務化されました。相続登記の申請義務化と言われています。今年(令和6年)4月1日から施行されていますので、Bさん、Cさん、Dさんは3年以内に本件居宅につき相続登記をしないといけません。
Q.いつから3年なのですか。
A.①自己のために相続があったことを知り、かつ②遺産である不動産につき所有権を取得したことを知ったときからです。BさんやCさんの場合、Aさんが死亡したことは当然知っており、かつAさん名義の居宅があることを知っていますので、死亡した日の翌日から3年以内に相続登記の申請を行う必要がある、ということになります。
Q.相続登記とは何ですか。
A.本件で言えば、Aさんが死亡したことを理由として、Bさん、Cさん、DさんがAさんの居宅の所有権を相続により取得したことを明らかにする登記手続きです。法定相続分は、Bさんは2分の1、CさんとDさんは各々4分の1ずつですので、その旨登記簿に記載されることになります。
2 遺産分割協議に基づく登記との関係
Q.相続人が複数いる場合は、遺産分割協議が必要で、遺産分割協議で決まった遺産を登記するのではないですか。
A.遺産分割協議に基づく登記ですね。しかし、遺産分割によらない法定相続分の相続登記と遺産分割協議による登記とは別のものなのですよ。
Q.えっ。2段階の登記が必要になるのですか。
A.場合によってはそうなります。遺産分割協議が3年内にまとまれば遺産分割協議にしたがった登記をすればよく(なお、この場合の登記原因は「相続」となります)、法定相続分にしたがった相続登記をする必要はありません。しかし、遺産分割がなかなかまとまらない場合、先に述べた相続登記をする必要のある3年以内という期間が経過してしまう場合が生じてしまいます。かといって協議がまとまらない以上、遺産分割協議にしたがった登記をすることはできません。そこで、相続分にしたがった相続登記をする必要があるのです。その後遺産分割協議がまとまった場合は、遺産分割協議にしたがった登記がなされることとなります(この場合の登記原因は「遺産分割」となります)。この登記は遺産分割協議成立後3年以内に行う必要があります。
Q.相続登記をすれば遺産分割協議は不要ということにはならないのですね。
A.そうです。むしろ、法は、相続人の間で円滑に遺産分割を実施して、遺産共有関係をできるだけ解消することを志向しています。改正法は、相続開始から10年を経過した遺産分割は、10年を経過する前に相続人が遺産分割の調停を申し立てた場合を除き、特別受益等を考慮した具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分によりすることとしています(改正民法904条の3)。これは特別受益等を考慮した具体的相続分による分割を求めるのであれば、相続人に早期に遺産分割協議を行うことを促していることを意味します。一方、期間経過後においては、具体的相続分の算定を不要にして円滑な分割を可能としたわけです。このように、改正法は登記が実体を反映し易いようにしたのです。
3 相続登記と法定相続人の調査
Q.相続登記をするには、Aさんの法定相続人が誰であるか、調査をする必要があるのですか。Dさんの住所も本籍も知らないのですが。
A.法定相続人全員の調査が必要です。生まれてから亡くなるまでのAさんの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本を全部取得して調査する必要があります。その過程でDさんの名前も出てきます。こうして相続人が確定します。ご自身でも調査をすることはできますが、弁護士や司法書士などの専門家に頼むことも検討してよいかと思います。
こうして相続人全員が確定すれば、法務局に申請して法定相続人についての証明書を発行してもらうとよいでしょう。法定相続情報証明制度といわれるものです。同証明書を添付して、相続登記を申請することになります。
4 相続人申告登記制度
Q.法定相続情報証明制度は便利な制度ですが、相続登記のために相続人の調査をしないといけないのはちょっと大変ですね。
A.そうですね。元々の立法理由が、これまで相続が開始しても亡くなった方の名義のままになっているものがとても多い(所有者不明土地問題といわれるものです)、そういう事態をなくしていこう、という点にあるため、やむを得ないところでしょう。
しかし、相続登記の申請義務化をする一方、その義務を簡易に履行する制度も創設されました。Cさんが3年以内に法務局にAさんの子どもであることがわかる戸籍謄本を提出すれば、相続登記申請義務を履行したものとみなされる制度で、相続人申告登記制度と言われるものです。Cさんはこの制度を利用すれば、詳細な相続人調査はせずともよく、したがって、自分自身のものを除き法定相続人を特定するための戸籍関係書類は、不要となります。
R6.6掲載