中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

うつ病で働けなくなった従業員

はじめに

今日のストレス社会を背景にして、うつ病になっている方は極めて多く、職場における長期休業者の85%がうつ病と言われています。会社経営者や人事部、総務部の方は、うつ病に関する基本的な医学知識とともに、法律知識を知っておく必要があります。今回は、うつ病のため会社を休んでいる従業員をめぐる法律問題について考えてみましょう。

うつ病で働けなくなった従業員

【ケース】

甲会社の総務部社員Xのもとに、社員Yが医師の診断書をもって、うつ病を理由にしばらく会社を休ませて欲しいと言って来た。xは、医師の診断書がある以上、Yには休んでもらって早く病気が治るよう治療に専念してもらうことが必要であるとは思うが、長期間の欠勤になるとYの身分はどうなるのだろう、中小企業である我社としてはどのような対応を取ればいいのだろう、と考え出すと、夜も寝られない・・・。

A:そもそも、うつ病とは何でしょうか。

B:うつ病とは、気分障害の一種で、抑うつ気分、不安定感、気分や感情の低下が起こる病気と説明されています。身体症状としては、[1]夜、眠れない[2]食欲がない、[3]疲れやすい、[4]頭が重い、[5]息苦しいなどがあり、心の症状としては、[1]気分の低下(憂うつ)、[2]意欲の低下(やる気が出ない)、[3]思考の低下(頭がボーッとする)があります。

A:さて、会社としてどのように対応したらいいのでしょう?

B:まずは、就業規則の関連規定を確認しましょう。

A:甲会社の就業規則を見ると、「第〇条 社員が次の各号のいずれかに該当するときは、解雇するものとする。
[2]精神または身体の障害により、業務に耐えられないと認められたとき」、
「第〇条 1. 従業員が業務外の傷病により欠勤3か月以上に及ぶ場合は休職とする。
2.休職期間は、勤続3年未満の場合6カ月、3年以上の場合は1年とする。
3.休職期間中は基準内賃金の7割を支給する。
4.休職期間満了までに休職事由が消滅した場合は、復職させる。休職期間中に復職出来ない場合は、期間満了とともに自然退職とする」とあります。

B:前者は「解雇」、後者は「休職制度」と言われるものですね。「休職制度」とは、一般的には、ある労働者について労務に従事させることが不能または不適切な事由が生じた場合に、その労働者に対し、労働契約は存続させながら、労務への従事を免除または禁止するという制度である、と説明されています。

A:本件では、まだ「業務に耐えられないと認められたとき」には至っていないので、解雇はできませんね。

B:そうですね。Yの病状の程度はどうなのか、回復の見込みや回復までの期間はどうなのか、全く情報が不足しています。本人や家族、場合によっては、今後本人の承諾をもらって医師から直接状況を尋ねる、ということも必要になってくるかもしれません。なお、業務上の傷病の場合は労基法19条の解雇制限がある(使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後の30日間は労働者を解雇できない)ことにもご注意ください。

A:次に、後者の「休職制度」ですが、これは欠勤が3ヶ月以上及んだ場合に発動されるものなので、本件は「休職」の発令の前段階の状況です。この場合、休職の発令前までの期間、甲会社はXに給料を支払わないといけませんか。

B:いいえ。Xは労働契約上の労働の義務を履行できないのですから、甲会社は労働の対価となる賃金を支払う必要はありません。

A:Yは生活できなくなってしまうのでは。

B:傷病のため治療中に賃金が支払われない場合、3日間の待機期間経過後、最長1年6ヶ月間、傷病手当金(標準報酬日額の3分の2)が支給されます(健康保険法第99条)。

【ケース】

その後Yの欠勤は続き、まもなく、3か月になろうとしている。

A:Yが欠勤3か月に及んだ場合、甲会社はどうすればいいですか。

B:「休職」の発令をすることになるでしょう。その際、改めて医師の診断書の提出をしてもらうことが必要です。本件の場合、「就業規則第〇条に基づき、貴殿を休職6カ月に付する。」という休職命令書を送付することになります。

A:休職を発令した後の「休職期間」の給料はどうなるのでしょうか。

B:法律上、会社は給料を支払う義務はありません。実務上、無給とする会社もあれば、一定期間有給とする会社もあります。本件では、甲会社は7割を支払うことになっているようですね。

A:休職期間中の給料を支払うかどうかは、会社でバラバラなのですか。

B:そうなのです。休職は、公務員については法律で定められているのですが、民間企業については法律上、特に定めがなく、各会社の就業規則等で定められているにとどまります。各会社によって制度の内容が異なるため、休職期間中の賃金の支払いの有無も会社によって異なるのです。

【ケース】

休職期間6カ月が過ぎようとしている。

A:6カ月が経過したらどうなるのですか。

B:傷病から回復し就労可能となれば、休職は終了し、復職となります。これに対し、傷病が回復せず、期間満了となれば、自然退職または解雇(本件では、就業規則第〇条[2]号に基づく)となります。

A:Xは、病気は治癒したと主張し、甲会社は、治癒したとは言えない、復職を認めない、と言って主張が対立したらどうなりますか。

B:難しい問題ですね。復職の要件としての「治癒」とは、原則として、「従前の職務を通常の程度に行なえる健康状態に復したときをいう」と解されていますが、当初は軽易業務につかせれば、ほどなく通常業務に復帰できるという回復ぶりである場合には、会社はそのような配慮を行うことを義務付けられる場合もあるとした判例や、元の業務に復帰することは出来ない場合でも、労働契約上その職種や業務内容が元の業務に限定されていたわけではない場合で、労働者が他の業務に従事することは可能であり、その業務に付くことを申し出ているときは、同人の能力、経験、地位、会社の規模、業種、会社の配置・異動の実情及び難易等に照らして労働者が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討する義務を会社に認めた判例もあります(片山組事件最判平成10年4月9日)。会社としては、傷病労働者の解雇を回避するために配慮をすることが必要でしょう。

終わりに

以前と比べ表情が暗い、仕事の能率が低下しミスが増えている、遅刻・早退・欠勤が増えている、などの変化があると、何かあったんじゃないか、と周囲も配慮してあげることが必要です。うつ病は、神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン)の過剰消費あるいは不足が原因で起こるとされ、回復には休養と薬物治療が大切だと言われています。うつ病に対する理解を深め、双方が先鋭的な衝突をできるだけ避け、円満に解決する姿勢をもつことが望まれます。

H23.4掲載

うつ病で働けなくなった従業員 その2 »